“喪失”との向き合い方を描いた 芥川賞作家・伊藤たかみ氏に聞く

公開日: 更新日:

 太一は、ゆずこのおかずを食べる“お母さんごはんの日”をやろうという息子の提案を受け入れることにする。幼い裕樹が不憫(ふびん)だからという理由もあるが、本当は太一自身が、ゆずこの死を受け入れるためだった。

「形見って、残された側が“喪失”と折り合いをつけるためになくてはならないものだと思うんです。逝ってしまう側は、たとえ突然死でも家族が故人の遺志を推し量ることができるし、今はエンディングノートというものが普通に売られていて自分の死に備えられる。でも、死なれる側のノートは売っていない。ただ置いていかれるだけです。そんなとき形見があれば、どんな形であれ少しずつでも死を受け入れていくことができるのではないかと」

不倫の末に急死した妻が残した形見

 死という重いテーマを扱い、太一の置かれた状況は修羅場中の修羅場であるが、物語にはどこかユーモラスな空気感が漂う。その最たるものが、冷凍庫の中でおかず以上に存在感を誇示している、毛ガニ。ゆずこが死の直前、北海道から送ってきたものだった。太一は、このカニを間男である真鍋に食べさせようともくろむ。バカバカしさによって救われる心の動きが、丁寧に描写されていく。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    和久田麻由子は“女子御三家”の女子学院から東大へ 元NHKの先輩・膳場貴子と重なるキャリア

  2. 2

    嵐「最後の楽曲」好調の裏で起きた異変…ボイトレを続けた櫻井翔は歌声をキープ

  3. 3

    永田町で飛び交う高市首相の「健康不安」説…風邪の疑いで外交キャンセル、総理総裁の器にも疑問符

  4. 4

    高市首相が高額療養費見直しめぐり「丁寧に議論した」は大ウソ 患者団体を“アリバイ”に利用する悪辣

  5. 5

    活動停止→STARTO社退社後も“芸能界引退”はしない? 嵐リーダー大野智の“マル秘”ビジネスプラン

  1. 6

    戸田恵梨香「リブート」出演で“新ファッション女王”へ 衣装&ジュエリーがSNS席巻、松嶋菜々子超えの存在感

  2. 7

    侍Jを苦しめるNPB「選手ファースト」の嘘っぱち トレーナーの劣悪待遇に俳優・渡辺謙もビックリ?

  3. 8

    米国偏重ルールのWBCに「ふざけるな!」 MLBのカネ儲けのために侍Jが必死で戦う“ねじれ”の図式

  4. 9

    「おまえに4番を打ってほしい」石毛宏典監督は最後の試合前にこう告げた

  5. 10

    WBCイタリア代表が「有名選手ゼロ」でも強いワケ 米国撃破で予選R1位突破、準決勝で侍Jと対戦も