著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ピルグリム」(1~3)テリー・ヘイズ著、山中朝晶訳

公開日: 更新日:

 1巻の帯には「悪魔のテロ計画を阻止せよ」とあり、2巻は「伝説のスパイが追いつめる!」、3巻は「悪魔と伝説、対決の時!!」と大きな惹句が付いている。悪魔のような男がテロを計画していて、それを伝説的なスパイが追いつめるんだな、とわかる。なんだかつまらなそうだ。これまで無味乾燥な謀略スパイ小説をたくさん読まされてきたから、これもそういう物語であるように思える。だから最初は食指が動かなかった。先に読んだ知人の「ちょっと面白いよ」という感想を聞かなければ、手に取らなかったかもしれない。

 結論から書くと、帯の惹句に嘘はない。本当にその通りの話だ。ただし、もっと豊穣で、色彩感豊かで、奥が深い。だから、ずんずんと文庫3巻を一気読みである。

 サラセンと呼ばれるテロリストの計画が読者に知らされるのが第2巻の冒頭。つまり、その全貌はなかなか明かされない。これが本書の最大の特徴といっていい。ではその間、何をしているかというと、サラセンがなぜそういう計画を立てるに至ったかという彼の半生が描かれていく。あるいは、サラセンを追いつめる主人公の半生がさまざまな回想を挿入して描かれていく。さらに、ニューヨーク市警のブラッドリー警部補の人生も語られていく。そういうふうに人間のドラマを丁寧に描いて、積み上げていくので、物語にどんどん奥行きが生まれてくる。一気読みしてしまうのはそのためだ。(早川書房 各860円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    梅野隆太郎は崖っぷち…阪神顧問・岡田彰布氏が指摘した「坂本誠志郎で捕手一本化」の裏側

  2. 2

    阪神に「ポスティングで戦力外」の好循環…藤浪晋太郎&青柳晃洋が他球団流出も波風立たず

  3. 3

    阪神・佐藤輝明が“文春砲”に本塁打返しの鋼メンタル!球団はピリピリも、本人たちはどこ吹く風

  4. 4

    自民両院議員懇談会で「石破おろし」が不発だったこれだけの理由…目立った空席、“主導側”は発言せず欠席者も

  5. 5

    広末涼子「実況見分」タイミングの謎…新東名事故から3カ月以上なのに警察がメディアに流した理由

  1. 6

    参政党のSNS炎上で注目「ジャンボタニシ」の被害拡大中…温暖化で生息域拡大、防除ノウハウない生産者に大打撃

  2. 7

    国保の有効期限切れが8月1日からいよいよスタート…マイナ大混乱を招いた河野太郎前デジタル相の大罪

  3. 8

    『ナイアガラ・ムーン』の音源を聴き、ライバルの細野晴臣は素直に脱帽した

  4. 9

    初当選から9カ月の自民党・森下千里議員は今…参政党さや氏で改めて注目を浴びる"女性タレント議員"

  5. 10

    “死球の恐怖”藤浪晋太郎のDeNA入りにセ5球団が戦々恐々…「打者にストレス。パに行ってほしかった」