佐々木寛
著者のコラム一覧
佐々木寛

1966年生まれ。専門は、平和研究、現代政治理論。著書(共著)に「市民社会論」「『3・11』後の平和学」「地方自治体の安全保障」など多数。現在、約900キロワットの市民発電所を運営する「おらってにいがた市民エネルギー協議会」代表理事、参院選新潟選挙区で野党統一候補を勝利に導いた「市民連合@新潟」の共同代表。

「和解」という冒険の世界へ

公開日: 更新日:

「和解」ティク・ナット・ハン著(サンガ 1400円+税)

「和解」は21世紀のキーワードである。人類は今、近代世界で分断されてしまった多くのつながりを再生させるための思想と技とが試されている。「世界を変革しようと思うなら、まずは自分がその変革となれ」という箴言がある。これは実際に世界を変革したブッダやガンジーが実践したことでもある。しかし私たちは今、世界を「和解」させる前に、まず自分自身と「和解」できていないのかもしれない。本書が示すのは、まさに現代世界の「和解」への鍵が、私たち一人一人の内側にあるという真実である。

 人類は、「ホモ・エレクトス(直立する人)」や「ホモ・ハビリス(器用な人)」、あるいは「ホモ・サピエンス(思考する人)」と呼ばれてきた。しかし著者によれば、何よりも私たちは「ホモ・コンシャス(気づきの人)」と呼ばれるべき存在である。私たちは自らの内に潜む痛みや悲しみに対峙し、そこに「内なる明かり」をともし、それを受け入れ、ケアすることで、自分を構成した家族や祖先、あるいは宇宙全体とも「和解」することが可能となる。過去の幻影にとらわれ、自我の牢獄に閉じこもるのではなく、自らを「命の流れの続き」として実感し、真に自由になることで、世界に満ちた暴力の再生産(輪廻)から抜け出すことができる。著者はこの絶え間ない気づきの実践を「マインドフルネス」と呼んでいる。

 僧侶であり、詩人であり、人権・平和活動家である本書の著者は、ベトナム戦争時に「社会参画仏教(応用仏教)」の指導者として戦火で傷ついた人々を支援し、また戦争終結を求める和平提案によって母国を追われた。一貫して実践的な彼の教えが志向するのは、自己変革を通じた世界の変革である。昨今注目される「非暴力コミュニケーション」の技法などとも通底している。

 本書は、自律的に世界と連帯する技、すなわち「和解」という無限の可能性をもつ冒険の旅へ読者を誘う。訳文もとても丁寧である。

【連載】希望の政治学読本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    センバツ人気低迷の真犯人!「スタンドガラガラ」なのは低反発バット導入のせいじゃない

    センバツ人気低迷の真犯人!「スタンドガラガラ」なのは低反発バット導入のせいじゃない

  2. 2
    三田寛子ついに堪忍袋の緒が切れた中村芝翫“4度目不倫”に「故・中村勘三郎さん超え」の声も

    三田寛子ついに堪忍袋の緒が切れた中村芝翫“4度目不倫”に「故・中村勘三郎さん超え」の声も

  3. 3
    若林志穂が語った昭和芸能界の暗部…大物ミュージシャン以外からの性被害も続々告白の衝撃

    若林志穂が語った昭和芸能界の暗部…大物ミュージシャン以外からの性被害も続々告白の衝撃

  4. 4
    (6)「パンツを脱いできなさい」デビュー当時の志穂美悦子に指示したワケ

    (6)「パンツを脱いできなさい」デビュー当時の志穂美悦子に指示したワケ

  5. 5
    夏の甲子園「朝夕2部制」導入の裏で…関係者が「京セラドーム併用」を絶対に避けたい理由

    夏の甲子園「朝夕2部制」導入の裏で…関係者が「京セラドーム併用」を絶対に避けたい理由

  1. 6
    井上真央ようやくかなった松本潤への“結婚お断り”宣言 これまで否定できなかった苦しい胸中

    井上真央ようやくかなった松本潤への“結婚お断り”宣言 これまで否定できなかった苦しい胸中

  2. 7
    マイナ保険証“洗脳計画”GWに政府ゴリ押し 厚労相「利用率にかかわらず廃止」発言は大炎上

    マイナ保険証“洗脳計画”GWに政府ゴリ押し 厚労相「利用率にかかわらず廃止」発言は大炎上

  3. 8
    「大谷は食い物にされているのでは」…水原容疑者の暴走許したバレロ代理人は批判殺到で火だるまに

    「大谷は食い物にされているのでは」…水原容疑者の暴走許したバレロ代理人は批判殺到で火だるまに

  4. 9
    福山雅治は自宅に帰らず…吹石一恵と「6月離婚説」の真偽

    福山雅治は自宅に帰らず…吹石一恵と「6月離婚説」の真偽

  5. 10
    大谷は口座を3年放置のだらしなさ…悲劇を招いた「野球さえ上手ければ尊敬される」風潮

    大谷は口座を3年放置のだらしなさ…悲劇を招いた「野球さえ上手ければ尊敬される」風潮