世界のオザワ誕生に父の物語

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「日本の血脈」石井妙子著/文春文庫

「父はとにかく東条英機や岸信介のことを嫌っていました。『日本を滅ぼすのは軍人と官僚だ。軍人は涙を知らない。官僚は利権のことしか考えない』。そう言って、よく怒っていました。戦後、岸信介さんが首相になった時も、『あんな悪い奴が首相になるようでは日本はよくならない。官僚を輩出する東大など解体してしまえ』と言うのが持論で、東大紛争の時も全共闘を支持していたほどでした」

 これは、この本の中で小沢征爾の兄、俊夫が語っている言葉である。

 よく知られているように、征爾の名は父親の開作が尊敬していた軍人の板垣征四郎と石原莞爾から取られた。満州(現在の中国東北部)に王道楽土をという夢を真っすぐに信じた開作は満州青年連盟のメンバーとなり、それを推進していく。しかし、石原が東条に追われ、岸が実権を握って、夢は悪夢と化す。彼らを批判する開作も遠ざけられていった。

 それなのに開作は日本軍部の協力者として中国側からその首に懸賞金をかけられ、日本軍部からも危険分子として見られて憲兵に監視されることになってしまうのである。

 そして失意のままに8月15日を迎えた。その日、開作は俊夫にこう言った。

「今でも、よく覚えています。玉音放送を聞いた日のことです。父は僕たちにはっきり言いました。『日本は負けた。けれど、これは日本にとっていいことなんだ。日本人は勝ってばかりいて長く涙を忘れていた。負けて涙を知ることはいいことなんだ』。それからこうも続けました。『もう戦争に負けたんだから、お前たち、好きなことをやれ』」

 世界の指揮者、小沢征爾が誕生する背景には、こんな父の物語があった。

「女系家族」の小泉進次郎に始まって、香川照之、中島みゆき、小沢一郎、オノ・ヨーコなど、足で歩いた「血脈」の跡が厚みをもって描かれている。たとえば、小泉純一郎の別れた妻、つまり進次郎の母親、佳代子の家が創価学会だと「週刊朝日」の2001年6月1日号「実弟が『元妻の涙の離婚告白』に“反論”」で報じられたが、著者は「佳代子の実家が創価学会員であったという事実は一切ない」と断定する。

 それにしても。血とは何なのだろう。それに頼って、あるいはそれのみで安倍晋三は首相となったが、それを許してしまうのも日本人の血なのか。★★★(選者・佐高信)

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