日刊ゲンダイDIGITAL

  • facebook  
  • twitter  
  • Facebook Messenger

モデル小説で新聞記者に語らせたタブー

「トヨトミの野望」梶山三郎著 講談社

 プロ野球の南海ホークスに杉浦忠という名投手がいた。長嶋茂雄と立教大学同期だが、挙母高校の出身である。挙母は由緒ある地名だったが、その挙母市が1959年に豊田市になる。トヨタ自動車の豊田である。どうして1企業に合わせて、「古事記」にも登場する地名を変えなければならないのか。変えようとした当時の市長や議会に対して激しいリコール運動が起こったが、結局、豊田市となった。

 この「小説・巨大自動車企業」は明らかにそのトヨタをモデルとしている。「週刊金曜日」の1月27日号に、この作品にトヨタ自動車名誉会長の豊田章一郎氏が激怒したと書かれているが、登場人物は次のように絵解きされる。

「トヨトミ自動車」社長の武田剛平は、1995年に28年ぶりに豊田家以外から代表取締役社長となった奥田碩(現トヨタ相談役)であり、副社長の御子柴宏は、奥田の後継社長の張富士夫(現トヨタ名誉会長)、そして、豊臣統一が現社長の豊田章男である。

 テーマはトヨタは豊田家のものなのか?

 豊田家のものにしたかったら株式を公開して上場してはならない。その原則が豊田家の人間にはわかっていないから混乱が起こる。

 私は新聞記者の先輩と後輩が次のように話す場面に強く太くサイドラインを引いた。

「先輩、釈迦に説法を承知で言いますが、トヨトミの終身雇用の対象はあくまで社員です。工場労働者の主力を担う期間工は蚊帳の外だ」

「景気、業績の調整弁だからな」

「景気、業績が悪くなれば、ばっさばっさと斬りますよ。そのための期間工だ。外国人記者は期間工の実態を知らないから突っ込めない。トヨトミのしたたかさ、怖さがわかっていないんだな」

 派遣切りもトヨタは早かった。そこに大企業の社会的責任といった意識はない。

 記者の話はこう続く。

「だから日本人記者は期間工の問題には触れない。触れた時点で即出入り禁止だ。広告も入らなくなります。この不景気の時代、日本最大の広告主からオフリミットを食らったら会社が傾く。記者が路頭に迷うことになる」

 広告のない雑誌の「週刊金曜日」に連載された辛口の「トヨタの正体」(金曜日)が名古屋を中心に8万部ほど売れたことも、ここで付記しておこう。★★★(選者・佐高信)

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

最新のBOOKS記事