モデル小説で新聞記者に語らせたタブー

公開日: 更新日:

「トヨトミの野望」梶山三郎著 講談社

 プロ野球の南海ホークスに杉浦忠という名投手がいた。長嶋茂雄と立教大学同期だが、挙母高校の出身である。挙母は由緒ある地名だったが、その挙母市が1959年に豊田市になる。トヨタ自動車の豊田である。どうして1企業に合わせて、「古事記」にも登場する地名を変えなければならないのか。変えようとした当時の市長や議会に対して激しいリコール運動が起こったが、結局、豊田市となった。

 この「小説・巨大自動車企業」は明らかにそのトヨタをモデルとしている。「週刊金曜日」の1月27日号に、この作品にトヨタ自動車名誉会長の豊田章一郎氏が激怒したと書かれているが、登場人物は次のように絵解きされる。

「トヨトミ自動車」社長の武田剛平は、1995年に28年ぶりに豊田家以外から代表取締役社長となった奥田碩(現トヨタ相談役)であり、副社長の御子柴宏は、奥田の後継社長の張富士夫(現トヨタ名誉会長)、そして、豊臣統一が現社長の豊田章男である。

 テーマはトヨタは豊田家のものなのか?

 豊田家のものにしたかったら株式を公開して上場してはならない。その原則が豊田家の人間にはわかっていないから混乱が起こる。

 私は新聞記者の先輩と後輩が次のように話す場面に強く太くサイドラインを引いた。

「先輩、釈迦に説法を承知で言いますが、トヨトミの終身雇用の対象はあくまで社員です。工場労働者の主力を担う期間工は蚊帳の外だ」

「景気、業績の調整弁だからな」

「景気、業績が悪くなれば、ばっさばっさと斬りますよ。そのための期間工だ。外国人記者は期間工の実態を知らないから突っ込めない。トヨトミのしたたかさ、怖さがわかっていないんだな」

 派遣切りもトヨタは早かった。そこに大企業の社会的責任といった意識はない。

 記者の話はこう続く。

「だから日本人記者は期間工の問題には触れない。触れた時点で即出入り禁止だ。広告も入らなくなります。この不景気の時代、日本最大の広告主からオフリミットを食らったら会社が傾く。記者が路頭に迷うことになる」

 広告のない雑誌の「週刊金曜日」に連載された辛口の「トヨタの正体」(金曜日)が名古屋を中心に8万部ほど売れたことも、ここで付記しておこう。★★★(選者・佐高信)

【連載】週末オススメ本ミシュラン

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    センバツ人気低迷の真犯人!「スタンドガラガラ」なのは低反発バット導入のせいじゃない

    センバツ人気低迷の真犯人!「スタンドガラガラ」なのは低反発バット導入のせいじゃない

  2. 2
    三田寛子ついに堪忍袋の緒が切れた中村芝翫“4度目不倫”に「故・中村勘三郎さん超え」の声も

    三田寛子ついに堪忍袋の緒が切れた中村芝翫“4度目不倫”に「故・中村勘三郎さん超え」の声も

  3. 3
    若林志穂が語った昭和芸能界の暗部…大物ミュージシャン以外からの性被害も続々告白の衝撃

    若林志穂が語った昭和芸能界の暗部…大物ミュージシャン以外からの性被害も続々告白の衝撃

  4. 4
    (6)「パンツを脱いできなさい」デビュー当時の志穂美悦子に指示したワケ

    (6)「パンツを脱いできなさい」デビュー当時の志穂美悦子に指示したワケ

  5. 5
    夏の甲子園「朝夕2部制」導入の裏で…関係者が「京セラドーム併用」を絶対に避けたい理由

    夏の甲子園「朝夕2部制」導入の裏で…関係者が「京セラドーム併用」を絶対に避けたい理由

  1. 6
    井上真央ようやくかなった松本潤への“結婚お断り”宣言 これまで否定できなかった苦しい胸中

    井上真央ようやくかなった松本潤への“結婚お断り”宣言 これまで否定できなかった苦しい胸中

  2. 7
    マイナ保険証“洗脳計画”GWに政府ゴリ押し 厚労相「利用率にかかわらず廃止」発言は大炎上

    マイナ保険証“洗脳計画”GWに政府ゴリ押し 厚労相「利用率にかかわらず廃止」発言は大炎上

  3. 8
    「大谷は食い物にされているのでは」…水原容疑者の暴走許したバレロ代理人は批判殺到で火だるまに

    「大谷は食い物にされているのでは」…水原容疑者の暴走許したバレロ代理人は批判殺到で火だるまに

  4. 9
    福山雅治は自宅に帰らず…吹石一恵と「6月離婚説」の真偽

    福山雅治は自宅に帰らず…吹石一恵と「6月離婚説」の真偽

  5. 10
    大谷は口座を3年放置のだらしなさ…悲劇を招いた「野球さえ上手ければ尊敬される」風潮

    大谷は口座を3年放置のだらしなさ…悲劇を招いた「野球さえ上手ければ尊敬される」風潮