著者のコラム一覧
白石あづさ

日本大学芸術学部卒。地域紙の記者を経て約3年間の世界放浪へと旅立つ。現在はフリーライターとして旅行雑誌などに執筆。著書に「世界のへんな肉」「世界のへんなおじさん」など。

絶海の孤島上陸のためクライミングジム通い

公開日: 更新日:

「鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。」川上和人著 新潮社 1400円+税

 朝からうちの出窓に飛来するハトたち。ポッポ、ポッポと騒ぎ立て、白いフンをプイプイまき散らす。どうにか撃退したいと、テクノを大音量で流してみたらクルックー!! とノリノリで逆効果だ。

 そんな謎に満ちた鳥の生態を日夜、解き明かすために奔走している鳥類学者の生態をつづった本書を一気読み。山中を徘徊し、いつザックリやられるか分からない武闘派の熊学者や虎学者と違って、南国で極彩色の鳥を片手に気弱にほほ笑むイメージがあったのだが、その実態はロビンソン・クルーソーも顔負けのアドベンチャーそのものである。

 著者の川上氏は、主に小笠原諸島の鳥たちを観察しているのだが、時には絶海の孤島へも上陸する。南硫黄島・死闘登頂編を読んでみよう。島へ上陸するためには船から泳いで上陸せねばならず、さらに10メートルの垂壁を登らないとならない。研究する前にプールやクライミングジムに通い、自宅から職場までジョギングして体力をつける。

 調査隊には死亡時5000万円の生命保険をかけられ、救急救命講習を受け、神社で神頼みをして無事、上陸しても、海鳥にアタックされ、大量のコバエが口に入り、コブシ大の石が降ってくる。アポロチョコ形の山の頂に向かうと死屍累々と鳥の死体が続く地獄絵図。捕食する脊椎動物がいないため、ゆっくりと分解されるという。「美しいだけの自然はない」と著者は語るが、日本にもこんな原始的な島がまだあったのね。

 男だらけの南の島2週間、ダークサイドに落ちそうな著者を支えるのは喫茶店ごっこ。予算が削られたのかカロリーメイトではなく「ウイダーinゼリーのカロリーエイド添え」を食べながら、「俺、バツイチ」「俺もだよ」「妻が子供を連れていっちゃって」というボーイズトークで盛り上がる? のである。

「恋心をこじらせてストーキングするのは自然な衝動である。相手が女性でなくて本当に良かった」と告白する鳥類学者の波瀾万丈な日々。夏休みを迎える前に読んでみてはいかがだろう。

【連載】白石あづさのへんな世界

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    映画「国宝」ブームに水を差す歌舞伎界の醜聞…人間国宝の孫が“極秘妻”に凄絶DV

  2. 2

    「時代と寝た男」加納典明(22)撮影した女性500人のうち450人と関係を持ったのは本当ですか?「それは…」

  3. 3

    慶大医学部を辞退して東大理Ⅰに進んだ菊川怜の受け身な半生…高校は国内最難関の桜蔭卒

  4. 4

    TOKIO解散劇のウラでリーダー城島茂の「キナ臭い話」に再注目も真相は闇の中へ…

  5. 5

    国分太一の不祥事からたった5日…TOKIOが電撃解散した「2つの理由」

  1. 6

    国分太一は会見ナシ“雲隠れ生活”ににじむ本心…自宅の電気は消え、元TBSの妻は近所に謝罪する事態に

  2. 7

    輸入米3万トン前倒し入札にコメ農家から悲鳴…新米の時期とモロかぶり米価下落の恐れ

  3. 8

    「ミタゾノ」松岡昌宏は旧ジャニタレたちの“鑑”? TOKIOで唯一オファーが絶えないワケ

  4. 9

    中居正広氏=フジ問題 トラブル後の『早いうちにふつうのやつね』メールの報道で事態さらに混迷

  5. 10

    くら寿司への迷惑行為 16歳少年の“悪ふざけ”が招くとてつもない代償