「男らしさ」は慣習によって構築されたもの

公開日: 更新日:

「うしろめたさの人類学」松村圭一郎著 ミシマ社 1700円

 海外旅行で貧しい地域へ行ったときに戸惑うのは、「マニー、マニー」といって子どもや物乞いたちに取り囲まれたときだ。困惑しつつも、お金を与えるのは彼らのためにならないと、あげないことを正当化して見ないふりをする。大方の日本人はそんなところだろうか。

 しかし、ためになるかならないかは与える側が決めることではないし、物乞いする人間への共感があれば、贈与として素直にあげることができるのではないか。そう著者は問いかける。

 著者は文化人類学者として1998年に初めてエチオピアを訪れる。豊かな日本から見れば最貧国のエチオピアは異世界である。しかし、現地の人々と付き合っているうちに気づく。日本では物事をすべて経済的な交換価値から見ているから、対価のないものに金を出す習慣がない。一方、エチオピアでは、たとえ自分が貧しくとも、金を乞われたら、相手に共感し贈り物として与える。

 ここで著者が提唱しているのは「構造人類学」ならぬ「構築人類学」である。何事も最初から本質的な性質を備えているわけではなく、さまざまな作用の中でそう構築されてきた、と考える視点が構築主義だ。例えば、「男らしさ」というのは、生来そういう性質があるわけではなく、社会の制度や慣習によって構築されたものだ。同様に「児童虐待」や「ストーカー」といった現象も新たに構築され、それが現実化したということになる。

 ここで大事なのは、構築されたものであれば、構築し直すことが可能だということ。そして、そこで鍵になるのが「うしろめたさ」だ。豊かな自分をうしろめたく思いながら、自分には何ができるかを考え、そこから当たり前だった世界の見方を変えていく。その一歩を踏み出すことが、公平のバランスを取り戻す契機になる――。できたばかりの「構築人類学」、今後の発展を期待したい。

<狸>

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  2. 2

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  3. 3

    「おまえもついて来い」星野監督は左手首骨折の俺を日本シリーズに同行させてくれた

  4. 4

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  5. 5

    巨人大ピンチ! 有原航平争奪戦は苦戦必至で投手補強「全敗」危機

  1. 6

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  2. 7

    衝撃の新事実!「公文書に佐川氏のメールはない」と財務省が赤木雅子さんに説明

  3. 8

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  4. 9

    高市首相が漫画セリフ引用し《いいから黙って全部俺に投資しろ!》 金融会合での“進撃のサナエ”に海外ドン引き

  5. 10

    日本ハムはシブチン球団から完全脱却!エスコン移転でカネも勝利もフトコロに…契約更改は大盤振る舞い連発