「喫茶牢獄」日本橋ヨヲコ著
「喫茶牢獄」日本橋ヨヲコ著
書店で働き始めてだいぶ経つが、この10年で急速に在庫数と売り上げが増えているジャンルがある。メンタルケアの本だ。
日本人の心が近年それだけ疲れているのは悲しいことだが、こういう本が売れるほど人々が心に関しての興味を公にしやすくなったのは良いことなのかなとも思う。最近では読者や専門家が特に良かった珠玉のメンタル本を推す「メンタル本大賞」がネット上で開催されていたりもする。
心の不調は専門の機関に通うことが一番だが、本も一助になると私は考える。ただメンタル本を買うのは病院同様少し抵抗がある人もいるだろう。ただでさえ心が疲れているのに慣れてない活字を大量に読みたくない……。そういう方は医療エッセーではなく、マンガのメンタル本を読んでみてはいかがだろうか。
本書の主人公コモリはメンタルクリニックに通院している小説家。家に引きこもっていた彼女は少しでも症状を和らげるために近所の喫茶店で作業をすることを決意する。だが、いざ街に出てみると人の多さで発作が出そうになってしまう。そんな彼女が命からがら入ったのが「喫茶牢獄」。ここは普通の喫茶店ではない。心を激しく病んでいる人間のみが吸い寄せられる不思議な場所なのだ。なぜそんなパワーがあるのか、実はここで働いているのはあの世で刑罰を受けた悪魔で……という話だ。
ぶっ飛んでいる設定だが現代人のメンタルヘルスをかなり丁寧にリアリティーを載せて描いているのが最大の特徴だ。
心の不調にはグラデーションがある。外に出られる、働けてる、人と会話できている。だから元気な人なんだとは安易に決めつけてはいけない。
また精神状態を悪くする要因の一つに対人関係の濁りがある。職場環境や身近な人間からのDV、そういった状況がいかに人の心をすり減らすか明確に描かれている。読んでいて「自分の中の地獄をこのマンガは理解してくれている」と救われる気持ちになった。
著者の日本橋ヨヲコにしか描けない力強い線で生きているキャラクターたちは男女ともに時にセクシーさを感じるほど魅力的で、読んでいて元気が出る。
心が摩耗してメンタル本を探しに本屋に行くのならこのマンガも良い薬になるだろう。
(集英社 770円)



















