「熊野木遣節」宇江敏勝著
1937年、和歌山県田辺市の山中で、移動炭焼きをする父母の長男に生まれ、高卒後、親の元に帰って人里離れた山小屋で暮らしながら創作を続けた異色の作家の民俗伝奇小説集第7巻。
熊野の山深い八鬼沢の里が舞台。主人公のシナ代は無事に育つよう、魔よけの手だてとしていったん捨て子にする風習に従い、「七はぎの産着」に包まれ拾われるという儀式をへた最後の世代だった。そんな彼女が、いまや3軒しか残っていない集落で過ごした70年にわたる月日のなかで見聞きした出来事を描き出す連作7作品が収録。
近代化の波が押し寄せ、貴瀬川での丸太流しのときの木遣節の歌声が消え、牛から耕運機に代わり、脱穀機や稲刈り機などがあっという間に普及し村の祭りがなくなっていくさまが悲しくも美しく描かれている。
(新宿書房 2200円+税)