「熊野木遣節」宇江敏勝著

公開日: 更新日:

 1937年、和歌山県田辺市の山中で、移動炭焼きをする父母の長男に生まれ、高卒後、親の元に帰って人里離れた山小屋で暮らしながら創作を続けた異色の作家の民俗伝奇小説集第7巻。

 熊野の山深い八鬼沢の里が舞台。主人公のシナ代は無事に育つよう、魔よけの手だてとしていったん捨て子にする風習に従い、「七はぎの産着」に包まれ拾われるという儀式をへた最後の世代だった。そんな彼女が、いまや3軒しか残っていない集落で過ごした70年にわたる月日のなかで見聞きした出来事を描き出す連作7作品が収録。

 近代化の波が押し寄せ、貴瀬川での丸太流しのときの木遣節の歌声が消え、牛から耕運機に代わり、脱穀機や稲刈り機などがあっという間に普及し村の祭りがなくなっていくさまが悲しくも美しく描かれている。

(新宿書房 2200円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    清原和博氏が巨人主催イベントに出演決定も…盟友・桑田真澄は球団と冷戦突入で「KK復活」は幻に

  2. 2

    安青錦の大関昇進めぐり「賛成」「反対」真っ二つ…苦手の横綱・大の里に善戦したと思いきや

  3. 3

    99年シーズン途中で極度の不振…典型的ゴマすりコーチとの闘争

  4. 4

    実は失言じゃなかった? 「おじいさんにトドメ」発言のtimelesz篠塚大輝に集まった意外な賛辞

  5. 5

    日銀を脅し、税調を仕切り…タガが外れた経済対策21兆円は「ただのバラマキ」

  1. 6

    巨人今オフ大補強の本命はソフトB有原航平 オーナー「先発、外野手、クリーンアップ打てる外野手」発言の裏で虎視眈々

  2. 7

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  3. 8

    林芳正総務相「政治とカネ」問題で狭まる包囲網…地方議員複数が名前出しコメントの大ダメージ

  4. 9

    国分太一が「世界くらべてみたら」の収録現場で見せていた“暴君ぶり”と“セクハラ発言”の闇

  5. 10

    角界が懸念する史上初の「大関ゼロ危機」…安青錦の昇進にはかえって追い風に?