「さよなら、田中さん」鈴木るりか著

公開日: 更新日:

 文学界に彗星のように現れたスーパー中学生の小説デビュー作。小学館主催の「12歳の文学賞」で3年連続大賞を受賞。受賞作に書き下ろし作品を加えて、連作短編集が編まれた。

 小学6年生の主人公の名は田中花実。「花も実もある人生を」との願いを込めて名づけられた。父を知らず、貧しい母子家庭だが、明るくて、真っすぐで、優しい。毎日肉体労働に精を出す大食らいのお母さんと2人、たくましく生きている。激安店で半額セールを狙ったり、銀杏を拾い集めて食料の足しにしたり。

 笑いの絶えない日常に、ふと影が差すこともある。もしかして、お父さんは犯罪者? うちにはどうして親戚が一人もいないの? 友達にDランドに誘われたけど、お金がない、どうしよう……。それでも、花実ちゃんは格差社会の現実に負けない。

 表題作の「さよなら、田中さん」は、花実ちゃんの同級生、三上君が主人公。のぞきの疑いをかけられ、「エロで泣き虫」といじめられているが、「田中さん」だけは味方してくれる。裕福だが孤独な三上君の視点から、田中さん親子が描かれる。笑わせて、ちょっと泣かせる。

 作者の成長につれて、花実ちゃんはどんな女性になっていくのだろう。楽しみだ。

(小学館 1200円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「おまえになんか、値がつかないよ」編成本部長の捨て台詞でFA宣言を決意した

  2. 2

    【原田真二と秋元康】が10歳上の沢田研二に提供した『ノンポリシー』のこと

  3. 3

    カーリング女子フォルティウスのミラノ五輪表彰台は23歳リザーブ小林未奈の「夜活」次第

  4. 4

    3度目の日本記録更新 マラソン大迫傑は目的と手段が明確で“分かりやすい”から面白い

  5. 5

    国分太一“追放”騒動…日テレが一転して平謝りのウラを読む

  1. 6

    福山雅治&稲葉浩志の“新ラブソング”がクリスマス定番曲に殴り込み! 名曲「クリスマス・イブ」などに迫るか

  2. 7

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  3. 8

    松岡昌宏も日テレに"反撃"…すでに元TOKIO不在の『ザ!鉄腕!DASH!!』がそれでも番組を打ち切れなかった事情

  4. 9

    年末年始はウッチャンナンチャンのかつての人気番組が放送…“復活特番”はどんなタイミングで決まるの?

  5. 10

    査定担当から浴びせられた辛辣な低評価の数々…球団はオレを必要としているのかと疑念を抱くようになった