名画鑑賞がもっと楽しくなる本特集

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「ダ・ヴィンチ絵画の謎」斎藤泰弘著

 キリストを描いたとされるダビンチの絵画が、先ごろ史上最高額の4億5030万ドルで落札され、美術界が沸いている。名画は、なにゆえ名画なのか。知りたくなったら、その道のプロの本を開こう。今回は、ダビンチ本、名画読み解き本、美少女絵画本、美術愛好作家本、江戸絵画の見られる美術館本の5冊をご紹介。



 わずかな絵画作品しか描かなかったにもかかわらず、世界中で知られているレオナルド・ダビンチは、絵画のほかに鏡文字で書いた多くの手稿を残している。本書は、そんな手稿の研究者である著者が、その手稿をもとに絵を読み解こうと試みた意欲作だ。

 たとえば「モナリザのモデルは女装したダビンチ自身ではないか」という俗説。著者は、モナリザの目鼻口の位置がダビンチの自画像と重なることを証明しつつ、ダビンチ自身が「人は自分を描いてしまう傾向があるため、人物画に自分と同じ欠点を持ち込まないように全力を挙げて努めなければならない」という趣旨の手稿を残していることを示す。つまり人体各部の比例を正確に測定した素描を何度も行い、自分に似ないように努力していたダビンチでさえ、無意識に自身をなぞってしまったのではないかというのだ。

 ほかにも、大地流動説や人類絶滅の予感を書いた手稿などを紹介しながら、その世界観が絵のどこに表れているかを解説。手稿と絵画を照らし合わせる絵の読み方が面白い。

(中央公論新社 1000円+税)

「美少女美術史」池上英洋、荒井咲紀著

 美しいものがあれば、それを永遠にその場にとどめておきたいと願うのは人の常。であれば、美しい少女を描きたいと思う画家がいても不思議はない。本書は、美少女をキーワードに古代から現代に至るまでの美少女像が確立される歴史を明らかにしている。

 神話の中の美少女から始まり、純潔無垢のシンボルとして描かれることもあれば、キリスト教的な世界観を示す幼き聖母マリアとして描かれることもあった。さらに時がたつにつれキャンペーンガール、殉教者、庶民の中の少女、誘惑者としての少女なども描かれていく。文庫本ながら200点にも及ぶ図版が収録されており、一見の価値あり。肖像画が登場したルネサンス期の後、バロック時代に庶民にも焦点が当たるようになり、近代「少女」というジャンルが人気を博すようになった絵画の歴史の中で、美少女はどう扱われてきたのか。

 本書を通して、少女たちのまなざしに秘められたメッセージを読み解くことができる。

(筑摩書房 950円+税)

「名画の本音」木村泰司著

 彼女と美術館でデートなんていう機会が訪れたとき、名画を前に無言になってしまうなら、本書を手に取るべし。「印象・日の出」や「日傘の女」で有名なモネは人の顔を描くのが苦手だったため頼まれて描いた肖像画さえ顔をそむけたポーズにしていること、フェルメールの「兵士と笑う女」の背後には西が上になっている地図が描かれていること、ボッティチェリの描いた貝殻の上に裸で立つ「ヴィーナスの誕生」のポーズだと貝殻が転覆することなど、思わず「へー」っと感心してしまう名画の裏話が満載なのだ。

 特にかつては画家自身が絵にタイトルをつける習慣がなかったため絵の内容とタイトルの関係が微妙な絵画も多く、たとえばヒエロニムス・ボスの「快楽の園」はタイトルからエロチックアートかと思いきや、祭壇画(宗教画)なのだとか。これ一冊で、名画がぐっと身近なものになること請け合いだ。

(大和書房 740円+税)

「いちまいの絵」浜田マハ著

 アート小説というジャンルで頭角を現した人気作家による絵画を巡るエッセー。自身の作家人生に大きく影響を与えた絵画や、美術史上のエポックメーキングともいえる絵画、次世代に影響を与えた絵画など計26枚を厳選し、図版とともに紹介している。

 たとえばスイスの都市・バーゼルは小説「楽園のカンヴァス」の作中舞台となった場所だが、この町の「バイエラー財団美術館」のロビーで、著者はピカソの「ゲルニカ」のタペストリーと2003年6月に対面して衝撃を受けている。というのも、同年2月に国連安保理会場ロビーにかけてあった「ゲルニカ」のタペストリーに暗幕がかけられ、一時姿を消したという事件があったからだ。当時は大量破壊兵器を所持している疑いのあるイラクに軍事行動に踏み切るかどうかという議論が行われており、何者かが反戦の象徴ともいえる「ゲルニカ」を外したのだというから驚く。

 アートにのめりこんだ体験を持つ人ならではの視点で、名画を見る喜びと一枚の絵が持つパワーを教えてくれる。

(集英社 900円+税)

「あの名画に会える美術館ガイド」江戸絵画篇

 あの名画を直接この目で見たいと思っても、実際どこの美術館に収蔵されているのかわからないとお困りの諸兄にお薦めしたいのが、この美術館ガイドシリーズ。特に本書は、伊藤若冲や歌川国芳ら江戸絵画の作品との出合いを渇望している人にはうってつけの一冊だ。

 有名どころはもちろん、知る人ぞ知る凄腕の絵師まで、120人が作家名で検索できるようになっている。お目当ての絵師の作品をしらみつぶしに探してもよし、逆に掲載されている図版から次の休日に巡る美術館を決めてもよし。著者は近代浮世絵を得意とする日本美術史の第一人者ということもあって、解説文も読みごたえがあるので実物を見る前に一読しておくとさらに興味が湧くこと必至。

 ちなみに、日本の伝統絵画は退色しやすいため、展示期間はどうしても限定されるとのこと。お目当ての作品のある美術館には、事前に展示期間を確認してから出かけてほしい。

(講談社 2400円+税)



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