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カズオ・イシグロで注目 最新海外文学特集

「2084 世界の終わり」ブアレム・サンサル著、中村佳子訳

 日本にルーツを持つカズオ・イシグロ氏のノーベル文学賞受賞によって、改めて海外文学に注目が集まっている。とはいっても、洋楽や洋画のように身近な存在になるにはまだまだのようだ。そこで今週は、日本の小説とは一味も二味も違う各国のおすすめ小説5冊を紹介する。

 何億人もの犠牲者を出した大聖戦が「完全な、決定的な、最終的な」勝利で終息。全能の神ヨラーとその代理人アビによって見守られ、かつて信徒の国と呼ばれていた地は「アビスタン」と名乗るようになった。国は、アビが選抜した正義の同胞団と呼ばれる高位の信徒によって統治され、人々の移動は巡礼時しか許されず、宗教以外の経済はこの国に存在しない。アティが収容されたアビスタンの辺境、ウア山のサナトリウムに、境界に消えたキャラバンを警護していた兵士の遺体が運び込まれてきた。事件はすぐに消却されるが、アティは「自分も他の人間もみんな心を操作されている」ことに気がつく。

 アルジェリア人作家が壮大なスケールで宗教に支配された全体主義社会の恐怖を描いた傑作ディストピア小説。

 (河出書房新社 2400円+税)

「起きようとしない男」デイヴィッド・ロッジ著、高儀進訳

 英国を代表するコミックノベルの大御所による短編集。

 ジョージの妻は、毎朝、目覚まし時計が鳴るや否や、ベッドから出て行く。その姿に後ろめたさを感じつつ見送った彼は、体を存分に伸ばし至福のひとときを味わう。

 妻が朝食を用意する音や、子どもたちが起きてきた音など現実を思い出させるような音から逃げるように夜具で耳をふさぐ。出勤時間が刻々と迫る中、自分よりも不幸な人と比べ、自分はいかに運がいいかと思い起こして、気を引き締めようとするが、彼はもう、人生に対するいかなる愛情も持ってはいなかったことに思い至る。ついに彼は、ベッドから永遠に出ないと決める。心配した妻は、医師や教区司祭を呼ぶが、彼をベッドから出すことはできない。(表題作)

 ほかに「けち」「わたしの仕事」など全8編を収録。

 (白水社 2200円+税)

「6時27分発の電車に乗って、僕は本を読む」ジャン=ポール・ディディエローラン著、夏目大訳

 パリ郊外に暮らすギレンは、通勤のためいつもの電車のいつもの席に座ると、数枚の紙片を取り出し、朗読を始める。乗客もその朗読を楽しみにしており、車内は静まり返る。朗読されるのは、小説や歴史書などの本の断片で、関連性も一貫性もない。電車を降りたギレンは、勤務先の工場で「それ」が待ち受けていると思うだけで足取りが重くなる。

「それ」とは、用済みの本を粉砕しパルプにする巨大な機械「ツェアシュトー五〇〇」のことだ。

 意に沿わない仕事に苦しむギレンは毎日、機械の中で生き残ったページを持ち帰り、電車で朗読をしていたのだ。そんなある日、ギレンは駅で声をかけてきた老婦人から、彼女の家で朗読をして欲しいと頼まれる。

「死んだ」本を朗読によって天国に送るギレンの孤独と葛藤、そして希望を描いたフランスのベストセラー。

 (ハーパーコリンズ・ジャパン 1400円+税)

「犬物語」ジャック・ロンドン著、柴田元幸訳

 判事の屋敷で暮らす犬のバックは、両親から受け継いだ恵まれた肉体と威厳で、同居犬たちの上に君臨していた。

 ある日、判事の留守に庭師下働きのマヌエルに連れ出されたバックは、わずかな金とともに見知らぬ男に引き渡されてしまう。抵抗するバックだが、こん棒で激しく殴られて、どう身を処するべきか次第に分かってくる。 何人もの手を経て、バックはカナダ政府に仕える重要文書の配達人ペローに買われる。バックは雪や、そり犬の仕事など、初めての体験に戸惑いながらも、周りの犬たちを観察して、一つ一つ学んでいく――。

 ゴールドラッシュに沸くクロンダイク地方への金鉱探しの旅の経験をもとに書かれたこの代表作「野生の呼び声」をはじめ、20世紀初頭に亡くなったアメリカの人気作家の作品を新訳した叢書シリーズ第2弾。

 (スイッチ・パブリッシング 2100円+税)

「ナミコとささやき声」アンドレアス・セシェ著、松永美穂訳

 ドイツの出版社で編集者として働く29歳の「ぼく」は、庭園の記事を書くために、1週間の予定で来日。京都の銀閣寺を取材中、桜の木にもたれて立つ1人の女性に目が留まる。視線が合い、ぼくは彼女とここで待ち合わせをしていて、ようやく互いに出会えたような気持ちになった。しかし、彼女はきびすを返し、振り返ることなく竹やぶに消えていく。4日後、禅寺の庭を前に座っていたぼくの前に彼女が現れ、ドイツ語で話しかけてきた。ナミコと名乗った彼女は大学でドイツ文学を専攻しているという。読書をするためいろいろな庭に出入りしているというナミコは、秘密の庭園を案内するとぼくを誘う。

 日本在住の経験もあるドイツ人作家の視点で日本を描いた恋愛小説。

 (西村書店 1500円+税)

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