著者のコラム一覧
笠井潔

1948年、東京生まれ。79年、デビュー作「バイバイ、エンジェル」で角川小説賞受賞。以後、ミステリー、思想評論、探偵小説論など幅広い分野で活躍。主な著書に、「サマー・アポカリプス」他の矢吹駆シリーズ、伝奇ロマン「ヴァンパイヤー戦争」シリーズなど。

日本を従属させる「第2の国体」の終焉へ

公開日: 更新日:

「国体論 菊と星条旗」白井聡著/集英社940円+税

「永続敗戦論」で注目を集めた著者による新著である。どのような敗北を喫したのか自覚しえない結果、敗北状態からの脱出が不可能化された永続敗戦体制が、本書では戦後日本の第2の「国体」として論じられている。

 第1の「国体」とはむろん、戦前の天皇主権国家を意味する。そこでは、万世一系の天皇を頂点に戴いた「君臣相睦み合う家族国家」の理念が国民に強制され、逸脱者は暴力的に排除された。戦後日本国家の形成過程を追いながら、著者は「国体」護持と対米従属がワンセットになった戦後日本の権力システムについて検討していく。そこから明らかになるのは、国民主権と象徴天皇制の戦後日本にも「国体」は温存されてきた事実だ。

 アメリカの占領行政は、天皇の権威を利用することで効率的に実施された。占領の終結と日本の「独立」を定めたサンフランシスコ条約は、日米安保条約と抱き合わせで成立している。象徴天皇制を明記した日本国憲法の上に日米安保条約が、ようするにアメリカが君臨していることは、この事態によっても明白だろう。

 第2の「国体」は、かつて天皇が占めていた場所にアメリカが入りこむかたちで形成された。第2の「国体」のもとで戦後日本人は、「両国睦み合う親密関係」として日米関係を捉え、アメリカは日本への「愛」や「好意」から、軍事的にも経済的にも日本を保護してくれていると思いこんできた。もちろんアメリカは、自国の利益のために日本を支配し、従属させてきたにすぎない。

 戦前の「国体」が迷走の果てに破滅したように、著者によれば、戦後のそれにも終焉の時は迫っている。「アメリカ・ファースト」路線のトランプ政権が、経済的にも軍事的にも、日本をアメリカのための消耗品として扱うのは必然だ。戦前と同じように、第2の「国体」もまた日本国民を無残に使い潰して崩壊することだろう。

【連載】貧困と右傾化の現場から

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    DeNA三浦監督まさかの退団劇の舞台裏 フロントの現場介入にウンザリ、「よく5年も我慢」の声

  2. 2

    日本ハムが新庄監督の権限剥奪 フロント主導に逆戻りで有原航平・西川遥輝の獲得にも沈黙中

  3. 3

    佳子さま31歳の誕生日直前に飛び出した“婚約報道” 結婚を巡る「葛藤」の中身

  4. 4

    国分太一「人権救済申し立て」“却下”でテレビ復帰は絶望的に…「松岡のちゃんねる」に一縷の望みも険しすぎる今後

  5. 5

    白鵬のつくづくトホホな短慮ぶり 相撲協会は本気で「宮城野部屋再興」を考えていた 

  1. 6

    藤川阪神の日本シリーズ敗戦の内幕 「こんなチームでは勝てませんよ!」会議室で怒声が響いた

  2. 7

    未成年の少女を複数回自宅に呼び出していたSKY-HIの「年内活動辞退」に疑問噴出…「1週間もない」と関係者批判

  3. 8

    清原和博 夜の「ご乱行」3連発(00年~05年)…キャンプ中の夜遊び、女遊び、無断外泊は恒例行事だった

  4. 9

    「嵐」紅白出演ナシ&“解散ライブに暗雲”でもビクともしない「余裕のメンバー」はこの人だ!

  5. 10

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢