著者のコラム一覧
笠井潔

1948年、東京生まれ。79年、デビュー作「バイバイ、エンジェル」で角川小説賞受賞。以後、ミステリー、思想評論、探偵小説論など幅広い分野で活躍。主な著書に、「サマー・アポカリプス」他の矢吹駆シリーズ、伝奇ロマン「ヴァンパイヤー戦争」シリーズなど。

サブカル作品で論じる資本主義の破局

公開日: 更新日:

「サブカルの想像力は資本主義を超えるか」大澤真幸著 KADOKAWA/1700円+税

 資本主義が破局に向かっていることを予感しながら、それが具体的にどのように終わるのか、われわれは想像することができない。人類の滅亡や地球生態系の破綻なら想像可能であるのに、これは奇妙な事態ではないか。

 親密圏で生きている現代の若者は、その外側に広がる〈世界〉に興味を持ちながら、それについて語る社会科学や人文知の言葉には十分に説得されることがない。むしろ成功したサブカルチャー作品のほうが、〈世界〉をめぐる若者の知的欲求に応えているようだ。そこで「サブカルチャーの想像力は資本主義を超えるか」について、考えてみることにしたと、本書のまえがきでは語られている。

「シン・ゴジラ」「デスノート」「おそ松さん」「君の名は。」「この世界の片隅に」など、ここ数年で話題になった映画やアニメやマンガが、さまざまな角度から論じられていく。

 たとえば、日本の対米従属に抵抗している点で「シン・ゴジラ」を評価しながらも、敵国への完全屈服という屈辱的な過去に目を塞いでいる戦後日本人の自己欺瞞を最終的には食い破れていないと、その限界性を指摘する。

 まえがきで語られた主題は、「おそ松さん」を論じた章「資本主義の鎖をちぎれるか」で検討されている。赤塚不二夫のマンガ「おそ松くん」の10年後という設定で制作された連続TVアニメが「おそ松さん」だ(第1期は2015年の放映)。

 ニートになった6つ子は、「働かない自分」を最終的に肯定できるのか。社会学者ウェーバーの資本主義論や、「白鯨」の作者メルビルの奇妙な短編小説「バートルビー」を参照し、ひたすら「私はなにもしないことを好む」と繰り返し続ける男バートルビーによる19世紀のウォール街(アメリカ資本主義)への特異な抵抗の意味を検討し、「6つ子たちよ、あと一歩だぞ」と著者は結論する。

【連載】貧困と右傾化の現場から

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  2. 2

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  3. 3

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  4. 4

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  5. 5

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  1. 6

    国分太一問題で日テレの「城島&松岡に謝罪」に関係者が抱いた“違和感”

  2. 7

    今度は横山裕が全治2カ月のケガ…元TOKIO松岡昌宏も指摘「テレビ局こそコンプラ違反の温床」という闇の深度

  3. 8

    国分太一“追放”騒動…日テレが一転して平謝りのウラを読む

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    大谷翔平のWBC二刀流実現は絶望的か…侍J首脳陣が恐れる過保護なドジャースからの「ホットライン」