寄席がもっと楽しくなる本

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「寄席の底ぢから」中村伸著

 空前のブームで、寄席には老若男女を問わず客が押し寄せ、人気落語家の独演会はプラチナチケットとまでいわれる。確かに、寄席で聴く彼らの高座は、テレビでは決して味わうことが出来ない究極の芸を感じさせる。そんな落語や寄席の魅力の一端を味わえる本を紹介する。

 ほぼ無休で昼も夜も開いており、時間の制約に縛られずに気軽に立ち寄ることが出来る寄席。そこでは、落語を中心に漫才や漫談、講談、紙切り、曲芸(太神楽曲芸)、奇術、音曲(三味線と唄)などの色物芸で番組が組み立てられ、客は笑っているうちに時間が経つのも忘れてしまう、まさに大衆娯楽の殿堂ともいえる場所だ。

 初めての人には入りづらく感じられるだろうが、寄席は初心者をいつも歓迎しており、一度足を踏み入れれば、テレビには出ていない芸人や若手ら、思わぬ掘り出し物の芸人との出会いも待っている。

 そんな寄席の楽しみ方から、何が起こるか分からないライブならではの寄席で見た光景の数々、そして170年以上というその歴史まで。寄席の持つ魅力をたっぷりと伝える入門ガイドとしても読める落語本。

 (三賢社 1500円+税)

「師匠 歌丸」桂歌助著

 今年亡くなった落語界の巨星・桂歌丸の二番弟子である著者が、忘れがたき師との32年間に及ぶ日々を追想した師弟本。

 東京理科大学に通い、数学教師を目指していた著者は、引っ込み思案で無口だったために、人前でしゃべる練習にと図書館で見つけた落語のテープを聴き、落語に開眼。「埋もれてしまった噺を見つけ出して息を吹き返すのをライフワークにしている」という歌丸の言葉をテレビで耳にし、入門を決意する。

 1985年、初めて歌丸と会った日から死別するまでの師とともに過ごした濃密な時間を回顧。

 生涯で一度も褒められたことはないが、弟子に対して無限の愛情を注いでくれた師の人柄と、高座への情熱、唯一無二というその話芸のすごみまで。テレビでは決して分からないその素顔を伝える。

 (イースト・プレス 1500円+税)

「いちのすけのまくら」春風亭一之輔著

 落語家が落語の本題に入る前に語るフリートークを「まくら」と呼ぶ。

 若手人気落語家がその「まくら」を語るようにつづったエッセー集。

 落語の国の超人気ユニット「熊さん・八っつぁん・大家さん・横町のご隠居・与太郎」が解散すると、もし言い出したらとか、古典落語「宮戸川」に登場する群がる女を追い払うための「女払い棒」なる棒が本当にあったら、という妄想話から、落語の楽屋では障害のある人や妊婦などの来場を伝える黒板があり、演目を自主規制したり言い回しを変えたりすることもあるなどという裏話、そして著者の名も知らずに求めてくる人や犬小屋に書いてほしいと頼まれたことまであるというサイン事情など。

 高座同様の絶妙な語り口でクスリと笑わせながら、本音をチクリ。

 (朝日新聞出版 1500円+税)

「やっぱ志ん生だな!」ビートたけし著

 芸能界の重鎮が落語界の「最高傑作」と称える昭和の名人について論じた古今亭志ん生論。

 夜、志ん生の落語を聴いていると、気づいたら朝になっていることも多いという。本筋に入る前の「まくら」から面白いと、「粗忽長屋」や「弥次郎」などのさわりを紹介。その「ぶっ飛んでいる」展開の魅力を伝えながら、それらを作り、演じる志ん生のずぬけた発想力に感服する。

 志ん生の表現力は、客の想像力を刺激しながら、落語を客の頭の中に絵として思い浮かばせるだけでなく、空間として見せてくれるという。その芸の根底には、あくまで〈落語とはお客を笑いに持っていくための道具である、という考えがあって「俺の芸を見ろ」という意識はない。だから、人によってはどれだけ笑わされても、そのうまさには気づかない〉という。

 (フィルムアート社 1400円+税)

「江戸の風」立川談志著

 2011年に亡くなった著者が、気管切開で声を失う直前に落語について語った口演や高座の書籍化。「落語のリアリズム」と題した口演では、落語の起源にまでさかのぼり、芸人がリアリズムに着目するようになった背景に触れる。その上で、落語は人間の了見の神髄まで表現しており、親孝行とか、頑張って偉くなったとか、悪人になってしまったとか「そこに行くまでの心理分解というかリアリズム。そこを演らなきゃいけないんだ」と説く。

 その他にも落語はもちろん、それを演じる人間や場所に吹く「江戸の風」について語る口演や、独演会で演じた「羽団扇」、毎日一言、日めくりのように短冊に揮毫してきた「一言」とその言葉にまつわるメッセージを添えた「日めくりのつもり」など、その落語哲学と人生が凝縮。

 (dZERO 1800円+税)

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