背筋も凍るコワ~イ話特集

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「芳一」堀川アサコ著

 いよいよ夏本番。資源小国の日本で電力を使わず涼むには、コワイ話を読むのが一番。ということで、体感温度を一気に下げてくれそうな怪談文庫本を紹介しよう。果たして怖いのは、亡霊か、妖怪か、怪奇現象か。それとも、あなたの後ろに立っている……。

 琵琶を弾いて語れば亡霊も現れて涙するという名手の芳一。足利義詮の前で北条高時の最期を語っていたとき、何かが近づいてくる気配を感じた。薄暗闇の中に、膝から下が空気に溶けた黒い人影が浮かび上がる。

「こ、これは――、覚海尼さま」

 商人が叫ぶと、

「恨むぞ――永久男め――」

 と漆黒の老尼がうなった。

 そのとき、義詮の姿が見えないことに気づく。芳一が外法を用いて義詮をかどわかしたのではないかと疑いをかけられ、同席していた橘三位時世は芳一が義詮を捜してくるまで人質にされることに。

 一方、暗がりで目覚めた義詮は、鏡をのぞいて、自分が北条高時の姿になっているのに気づいた。その日は正慶2年5月21日、高時の死の前日だった。(「第1話」)

 盲目でもなく僧でもない琵琶法師が、足利家に伝わる「北条文書」をめぐって亡霊に立ち向かう物語。

 (講談社 680円+税)

「ボルヘス怪奇譚集」ホルヘ・ルイス・ボルヘス&アドルフォ・ビオイ=カサーレス編、柳瀬尚紀訳

 マレーは死刑囚の独房にいる夢を見た。ほかに7人の死刑囚がいて、3人が連れ出されるのを見た。ひとりは発狂して暴れ、ひとりは殊勝ぶって口先だけの信心を唱え、ひとりは気絶して板にくくりつけられた。今夜はマレーの番だった。

 マレーは自分が冷静で、ほとんど無関心のようなのが不思議だった。彼は恋人殺害で有罪となり、電気椅子に縛り付けられたとき、突然、すべてが非現実のように思われた。自分は恐ろしい間違いの被害者だ。彼が目覚めると妻と子が傍らにいて、今まで見ていたもの一切は夢だと知った。

 そして、彼が震えながら、妻の額に接吻した瞬間、彼は処刑され、夢は中断された。(O・ヘンリー著「夢」)

 ほかに「荘子」、キケロ「予言について」、牛嶠「霊怪録」など、古今東西の書物から選んだ奇譚と呼ぶにふさわしい92の掌編。

 (河出書房新社 830円+税)

「怪を編む」福田和代ほか著

〈私〉には気になっている怪奇短編小説がある。小学生の頃に読んだ小説で、山に登った青年がそこにいないはずのKを見かける。ふとした口論の末、Kを突き落としてしまうが、遺体は消え、一緒に登った友人2人はKなど来ていないと言う。青年は自分の曖昧な記憶と罪悪感に怯え、崖から飛び降りて死ぬ。ところが妹は、Kは生きていて、手を振るKの姿を見て青年が大地に崩れ落ちるのがラストシーンだったと言うのだ。

 私は隣の市に住んでいる作者の曽我部を訪ねて、この小説のことを聞いた。曽我部は、当初の結末は私の記憶通りだったが、子供向けなので書き直し、最初の原稿は廃棄したと言う。曽我部は玄関で私を見送ってくれた。翌日、曽我部が刺殺されたことを知ったが、私の記憶では……。(福田和代著「記憶」)

 25人の作家が非日常の世界を描くショートショートアンソロジー。全編書き下ろし。

 (光文社 760円+税)

「霊能動物館」加門七海著

 小学生の少女が遊園地で遊んで、帰ろうとしたら、その日にかぎって誰もいなくて静まりかえっている。池の上には水面が隠れるほどボートがびっしり浮かんでいて、そのすべてに同じ顔、同じ服装をしたカップルが直立して乗ってこちらを見ている。

 アイスクリーム屋に行っておばちゃんに何度も声をかけたが振り向いてくれない。真ん前に立って怒鳴ったらようやく気がついてくれた。自宅の前でおばあちゃんに声をかけたが、やはり気づかない。目の前に立って「おばあちゃんっ」と大声を出したら跳び上がって驚いた。「ん?」と言って、少女を仏壇の前に座らせて塩を振りかける。わけを尋ねると「だって、お前、尻尾が生えてたよ」。(「狐の部屋」)

 オオカミ、タヌキなど身近な霊能動物の伝承や体験集。お宅の猫は、目で何かを伝えようとしていませんか?

 (集英社 620円+税)

「忘霊トランクルーム」吉野万理子著

 17歳の上倉星哉は、湘南に住む祖母に、アメリカ旅行中の留守番を頼まれた。祖母が経営するトランクルームの管理も兼ねたアルバイトだ。利用者の西条さんが夜、荷物を出し入れするので、午後5時から10時までが勤務時間になる。ヒマワリ柄の服を着た女性とすれ違ったので、西条さんかと思って挨拶したら日下部さんだった。祖母に話したら、口をぱかっと開けて「あんたも、見えるのね」と言った。

 その後、西条さんと親しくなったが、西条さんは日下部さんの姿を見たことがなく、彼女は呪縛霊ではないかと言う。2日目に日下部さんのトランクルームを開けてみたら、ヒマワリ柄の服を着た日下部さんが座り込んでいて、上目遣いに「あら」と言った。そして話し始めたのは元恋人への罪悪感だった。

 トランクルームに詰め込まれた記憶をめぐる物語5編。

 (新潮社 550円+税)

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