「リアルサイズ古生物図鑑 古生代編」土屋健著 群馬県立自然史博物館監修

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 原始の地球で誕生した生命は、数十億年にわたって「顕微鏡サイズ」でゆっくりと進化してきたが、先カンブリア時代末のエディアカラ紀(約6億3500万~5億4100万年前)になると突如、大型化する。以降、約2億8900万年にわたる古生代の地層から見つかる化石には、現代の生物と関わりがある生き物が多くなり、その姿は異形でも、彼らは私たちのご先祖ともいえる存在なのである。

 本書は、そんなさまざまな古生物を実際の「サイズ感」が分かるように現代の身近な風景に配置して紹介する異色図鑑。

 例えば、カンブリア紀(約5億4100万~4億8500万年前)を代表する海洋動物のひとつ「アノマロカリス」(写真①)は、サバやスズキなどと一緒に魚屋の店頭に並んでいるという具合だ。

 地球史上最初の覇者といわれるアノマロカリスの大きさは最大で1メートルほどとされており、多くは全長数十センチと思われ、見慣れたサバやスズキに比べるとちょっとグロいが、食いしん坊や食通ならついつい手が出てしまうかも。

 魚屋の売り口上で始まる解説も、アノマロカリスが覇者といわれるのは、この時代の動物はほとんどが10センチ未満で当時の生態系ではずばぬけて巨大だったからだが、なぜ巨大化したのかまでは分かっていないなどと、ユーモアを交えながら要点を押さえて伝える。

 時代が下ったデボン紀(約4億1900万~3億5900万年前)、アノマロカリスの最後の生き残り「シンダーハンネス」のサイズは、たかだか10センチほど。海洋生物の頂点に立っていたころの雄姿は見る影もなく、毛ガニやタラバガニなどの片隅で小さくなっている。この時代に古生物の陰の主役として席巻したのは、おなじみの三葉虫類だ。デボン紀の海に隆盛した「トゲトゲ三葉虫」の一種「ディクラヌルス」は、クワガタムシとの異種格闘技戦で紹介される。

 その他、同じ時代に登場して最初期に陸上に進出した四足動物「イクチオステガ」(写真②)は座敷で芸妓とツーショット。軽自動車並みの3・5メートルあったという古生代の陸上世界で最大級の肉食動物「ディメトロドン」は駐車場に配置される(表紙)など。想像も及ばない、はるか昔の生き物たちが、現代の風景の中に紛れ込むだけで、より身近な存在に感じられてくる(中には、実際に遭遇したら心臓が止まりそうな生き物たちもいるけれど)。

 動物だけでなく、シルル紀(約4億4400万~4億1900万年前)に地球の「本格的な緑化」をもたらした「クークソニア」などの植物も網羅。

 カンブリア紀からペルム紀(約2億9900万~2億5200万年前)まで、古生代の6つの時代に地球を闊歩していた約100種の生き物たちを時代別に紹介。あれこれと想像を巡らせながら、子どもと一緒に楽しめるおすすめ図鑑。

(技術評論社 3200円+税)

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