著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「会社を綴る人」朱野帰子著

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 32歳の紙屋は派遣社員を10年続け、ようやく小さな製粉会社の正社員職を得た。しかし、注意散漫で自信がなく、何をやってもうまくいかずに、同僚の邪魔になるばかり。もう何もしないでくれ、と言われるほどのダメ社員が主人公のお仕事小説である。

 父は気象予報士兼タレントで、母は料理研究家、さらに兄はサウジアラビアで巨大ビルを建設中。意欲ばりばりの家族に比べてこの青年、引っ込み思案だから恋人もなく独身。運転免許を取りに教習所に行ったときには路上に出た途端、頭が混乱して断念という経験の持ち主だから困ったものだ。

 彼の取りえはただひとつ。文章が書けること。しかし、「あのときは、ついに文才ある人間が我が家系に出たか、と思ったよ」と兄が言うほどたいしたことではなく、中学1年のときの区の読書感想文コンクールで佳作に入っただけにすぎない。

 たしかにそうなのだが、とりあえず、自分にはそれしかない、と総務部に配属された彼は、予防接種の呼びかけメールを作成するのに3時間かけて大奮闘。そういうところからこつこつやるしか、彼には方法がないのだ。

 会社にも問題があって、それほど理想的な会社でないことを知ること、匿名で彼の悪口を書くブロガーが社内にいることなど、いろいろあり、次々に個性的な人物も立ち現れて、彼も大変だが、さあ、紙屋、頑張れと、気がつくとエールを送っているのである。

 (双葉社 1400円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

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