著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「海とジイ」藤岡陽子著

公開日: 更新日:

 瀬戸内の島を舞台にした連作である。漁師の清ジイ、島の診療所にやってきた月島先生、石の博物館をつくった澪二の祖父――この3人の、どうやって死を迎えるか、その凛とした覚悟の日々が描かれていく。

 ここでは、月島先生を紹介する。看護師から「先生、歳を取るのは辛いことでしょうか?」と質問された先生が、「体の機能に関して言えば、辛いことが多いですね」と言ってから、次のように付け加える。

「でも心に関して言えば2つほどいいところもあります」

“年を取っていいところって何だろう”と、ここで立ち止まってしまった。体はつらい。たしかにそうだ。坂道を上るのはつらいし、重い荷物を持つのも、もうできない。しかし、心に関してはいいところもある、と月島先生は言うのだ。何だろう?

「ひとつは、これから先どのように生きようかという悩みが少なくなるということ」

 なるほど、若いときなら、この職業に就きたいけどできるだろうかとか、できればこういう人生を歩みたいけど無理だろうかとか、いろいろ考えて悩むものだが、年を取るとたしかにそういう悩みはなくなってくる。70歳を過ぎて80歳が近くなれば、そんなことを考えても仕方がないのだ。

「これは単に選択肢が少なくなるからだと思いますがね」と先生は言うが、目からウロコといっていい。あと1つは何? それは本書を当たられたい。 (小学館 1400円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  2. 2

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  3. 3

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  4. 4

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  5. 5

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  1. 6

    国分太一問題で日テレの「城島&松岡に謝罪」に関係者が抱いた“違和感”

  2. 7

    今度は横山裕が全治2カ月のケガ…元TOKIO松岡昌宏も指摘「テレビ局こそコンプラ違反の温床」という闇の深度

  3. 8

    国分太一“追放”騒動…日テレが一転して平謝りのウラを読む

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    大谷翔平のWBC二刀流実現は絶望的か…侍J首脳陣が恐れる過保護なドジャースからの「ホットライン」