司修(画家)

公開日: 更新日:

X月Y日Z時 深夜、倒壊率76%の住居内に造った耐震シェルターのベッドで目覚める。雨の音に交じって、遠慮がちなノックが聞こえる。夜光時計の針は午前3時。ノックがなくなる。息を殺して外の動きを感じ取ろうとする。雨だれがゼンマイ時計のようにタ・タ・タ・タと鳴っている。

 人がいることを示すためにスタンドのスイッチを入れ、さらに耳をすませる。小さな机に読みかけの文庫本が数冊積んである。福永武彦著「完全犯罪 加田伶太郎全集」(東京創元社 1300円+税)。著者名で買ってしまったもの。エラリー・クイーンを思わせる。

 えっ、あの詩人が、と、訳者名で買ってしまった、エラリー・クイーン著、鮎川信夫訳「Xの悲劇」、「Y」「Z」(東京創元社)までの3冊。A・E・W・メースン著「矢の家」(福永武彦訳 東京創元社 1000円+税)。これは、50年前に読んでいた。江戸川乱歩編「世界短編傑作集」。

 ここ数日、一晩に1冊読んでいた。睡眠不足。本屋が遠いので爆買いする傾向がある。ロバート・カレン著「子供たちは森に消えた」(広瀬順弘訳 早川書房 980円+税)。人間の闇を覗いた恐ろしさに、吐き気を覚えた。教養ある善人そうな表情の犯人。実話。

 ジェームス・ディーン主演の「エデンの東」で気になっていたスタインベックの同名長編小説も2冊読んでいた。後の2冊は在庫なし。旧約聖書がそのまま西部劇風になった、悪女の物語。そんなに怖くはない。

 ガサッと音がする。野良猫ではないかと思う。電気を消し、思い切って障子を開けた。臆病なので動悸が激しい。どうにでもなれとガラス戸も開けた。光る2つの目が、ギャァと叫んで逃げた。ハクビシンだ。こいつが森の奥からわが家に迫ってくると、必ず、フクロウの鳴き声と羽ばたきがするものだ。雨が降っているので、そうならなかったのだろう。

 戸締まりをして横になると、机の上の真っ赤な本が血のように見えた。ボブ・ウッドワード著「FEAR 恐怖の男 トランプ政権の真実」(伏見威蕃訳 日本経済新聞出版社 2200円+税)。

 ツイッターの一言が世界中に影響を及ぼすアメリカ大統領の素顔とは……読者を恐怖の底に陥れるなんていうものを越えていた。

【連載】週間読書日記

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    佐々木朗希「スライダー頼み」に限界迫る…ドジャースが見込んだフォークと速球は使い物にならず

  2. 2

    永野芽郁「キャスター」視聴率2ケタ陥落危機、炎上はTBSへ飛び火…韓国人俳優も主演もとんだトバッチリ

  3. 3

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  4. 4

    風そよぐ三浦半島 海辺散歩で「釣る」「食べる」「買う」

  5. 5

    広島・大瀬良は仰天「教えていいって言ってない!」…巨人・戸郷との“球種交換”まさかの顛末

  1. 6

    広島新井監督を悩ます小園海斗のジレンマ…打撃がいいから外せない。でも守るところがない

  2. 7

    インドの高校生3人組が電気不要の冷蔵庫を発明! 世界的な環境賞受賞の快挙

  3. 8

    令和ロマンくるまは契約解除、ダウンタウンは配信開始…吉本興業の“二枚舌”に批判殺到

  4. 9

    “マジシャン”佐々木朗希がド軍ナインから見放される日…「自己チュー」再発には要注意

  5. 10

    永野芽郁「二股不倫」報道でも活動自粛&会見なし“強行突破”作戦の行方…カギを握るのは外資企業か