石川理夫 温泉評論家

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2月×日 ふだん“読書”といっても、原稿執筆の史資料探しに複数の書物斜め読みが主で、温泉取材旅が私のフリーな読書タイムとなる。旅には手軽な新書がなじむ。とはいえ、遠藤慶太著「六国史」(中央公論新社 820円+税)は内容がじつに濃く、資料価値も高い。

 六国史は、いま改元の出典に、と推す声がある国書の最たる「日本書紀」に始まる古代の6つの正史のこと。私には大事な温泉史料の1つで、本書は成立の背景を丁寧に物語ってくれる。つい読みふけって体が冷え、深夜に白濁の温泉に入り直し、一息ついた。

3月×日 小笠原弘幸著「オスマン帝国」(中央公論新社 900円+税)も奥が深い。世界にあまた帝国はあれど、13世紀末に現トルコの地に誕生して、ヨーロッパ・アフリカ・アジア3大大陸にまたがり600年も続いた帝国は希有。その理由は? 

 帝国の版図だった東南ヨーロッパやコーカサス地方、トルコは温泉が豊か。新書で600年の歴史を語るため温泉の話はないが、今も焦点となるこの地域は地政学的に重要だ。オスマン帝国は多民族・多文化社会でイスラム教の強制もなかった。

 本書はイスラム世界を冷静に見つめ、一国史観や欧米偏重の歴史観を見直す一助となるだろう。

3月×日 今年は団塊の世代が体験した学園闘争の天王山、東大安田講堂占拠事件から半世紀。関連本の出版が続いた。その1つ、和田英二著「東大闘争 50年目のメモランダム」(ウェイツ 1800円+税)を読む。

 副題に「安田講堂、裁判、そして丸山眞男まで」とあり、第1部は法学部生だった著者の、ときに笑いも誘う「安田講堂戦記」。第2部は法学部丸山眞男教授が法研封鎖に「ナチスもしなかった」と非難した、と報じた一新聞記事から生じた「丸山教授の遭難」。この2部構成が効いている。とくに第2部は緻密な検証を通じて“冤罪”の可能性を解き明かし、感銘を受けた。本書は説得力ある現代史の記録となっている。

【連載】週間読書日記

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