「九つの殺人メルヘン」鯨統一郎著

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 バーを舞台にしたミステリーというと、ビール、ウイスキー、カクテルなどの洋酒が多いが、本書の舞台は渋谷区にある日本酒をワイングラスに注いで出す小じゃれた日本酒バー。しかも一話一話キーになる地酒が出てくるのがミソ。

 登場順に地酒の名前と産地を挙げると、春霞(秋田)、千寿白拍子(静岡)、白真弓(岐阜)、白雪(兵庫)、明眸(愛知)、ヒカリ百春(岐阜)、越乃寒梅(新潟)、天狗舞(石川)。

【あらすじ】本書には9つの殺人事件が登場するが、それぞれにこの8つの酒(1話と2話は同じ酒)を呼び水として、メルヘン(童話)が事件に絡んでいくという趣向。

 第1話は「ヘンゼルとグレーテルの秘密」。バーの常連である警視庁の刑事、工藤が未解決事件についてバーのマスターと犯罪心理学者の山内に話す。高校生の兄妹が被害者の庭に迷い込んで、偶然焼却炉の中の死体を発見する。有力な容疑者が2人いるのだが、どちらも完全なアリバイがある。

 そこで行き詰まっていると、カウンターの端に座っていた桜川東子が話に加わる。大学でメルヘンを専攻している東子は、「ヘンゼルとグレーテル」を例にして見事アリバイを崩す。

 この、3人の話に東子が口を挟みアリバイを崩すというパターンは一貫しており、2話以降登場する童話は、「赤ずきん」「ブレーメンの音楽隊」「シンデレラ」「白雪姫」「長靴をはいた猫」「いばら姫」「狼と七匹の子ヤギ」「小人の靴屋」。

【読みどころ】これらの童話と酒が事件とどう関わるのか、また完璧なアリバイを東子がどう崩していくのか。パターンを固定させて読み味を持続させていくというのは高度な技だが、手だれの作者は見事この難関をこなしている。 <石>

(光文社 619円+税)

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