「テロリストのパラソル」藤原伊織著

公開日: 更新日:

 酒好きの探偵が主人公のミステリーはけっこう多い。というより、下戸の探偵というのはハードボイルドになりにくい。とはいえ、度を超してアル中にまでなるとキャラクターづくりがむずかしい。本書の主人公は手が震えようがお構いなしにひたすら酒を流し込むという破滅型で、そのキャラクターがこの物語の暗鬱な空気と響き合っていく。

【あらすじ】新宿5丁目のバーのバーテン兼雇われ店長の島村。ある秋の朝、いつものように新宿中央公園の芝生の上で横になり、アル中のため震える手でウイスキーを飲んでいた。

 ようやく震えが収まり始めた頃、地響きと悲鳴が耳に飛び込んできた。公園内で爆弾が破裂し、17人の死者と多数の負傷者が出たのだ。幸い無傷の島村はその晩、店の外で3人の男に襲われ、その日に見たものを忘れろと警告される。

 翌朝、新聞を見ると爆破事件の死者の中にかつての知り合い2人の名があった。島村は東大在学時代には全共闘の活動家で、20年前の1971年に起きた車爆弾事件で友人の桑野と共に指名手配され、以後名前を変えて逃亡生活を送っていた。外国へ逃げていたはずの桑野がなぜか公園の爆破に巻き込まれ、一時期島村と同棲していた園藤優子も同じ場所で命を落としていた。おまけに、うかつにも現場に指紋を残していた島村は重要参考人として指名手配されてしまい、再び追われる身に。

 一体何が起きているのか。島村は身を隠すと同時に事件の真相を追っていく……。

【読みどころ】学園闘争も遠い昔話となった平成の世に亡霊のように突如現れたテロルの記憶を、島村は強いアルコールと一緒に飲み干していく。史上初の乱歩賞&直木賞ダブル受賞を果たした逸品。 

(文藝春秋 690円+税)

<石>

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    国分太一が社長「TOKIO-BA」に和牛巨額詐欺事件の跡地疑惑…東京ドーム2個分で廃墟化危機

  2. 2

    遠野なぎこさんか? 都内マンションで遺体見つかる 腐乱激しく身元確認のためDNA鑑定へ

  3. 3

    “お荷物”佐々木朗希のマイナー落ちはド軍にとっても“好都合”の理由とは?

  4. 4

    ドジャース大谷翔平に「不正賭博騒動」飛び火の懸念…イッペイ事件から1年、米球界に再び衝撃走る

  5. 5

    “過労”のドジャース大谷翔平 ロバーツ監督に求められるのは「放任」ではなく「制止」

  1. 6

    酒豪は危険…遠野なぎこが医学教授に指摘された意外な病名

  2. 7

    今度は井ノ原快彦にジュニアへの“パワハラ疑惑”報道…旧ジャニタレが拭い切れないハラスメントイメージ

  3. 8

    TOKIO解散劇のウラでリーダー城島茂の「キナ臭い話」に再注目も真相は闇の中へ…

  4. 9

    近年の夏は地獄…ベテランプロキャディーが教える“酷暑ゴルフ”の完全対策

  5. 10

    「かなり時代錯誤な」と発言したフジ渡辺和洋アナに「どの口が!」の声 コンパニオンと職場で“ゲス不倫”の過去