「尼子姫十勇士」諸田玲子著

公開日: 更新日:

 戦国時代の末期、出雲国を舞台にした長編である。滅亡した尼子氏の残党が、毛利氏に戦いを挑む物語だ。

 尼子再興軍の大将は、山中鹿介。颯爽たる身のこなしと、凜としたまなざしを持つ美丈夫で、女たちをとりこにしてきたが、彼の思いは一人の女性に捧げられている。それが総大将・尼子勝久の母スセリ。鹿介のほうが年下だが、幼いころから遊んだ仲で、いまも恋慕は続いている。こういういくつかの恋が物語の横糸になっているが、物語の本筋はもちろん、尼子再興を願う男たちの活躍譚だ。鹿介のもとに集まってくるのは、どれも一癖ありそうな者ばかり。しかし、彼らの活躍がまっすぐに進まないのも本書の特徴である。というのは、帯に「著者初の壮大な歴史ファンタジー」とあるように、伝奇仕立ての物語であるからだ。

 スセリの体に、八咫烏のかたちをしたものが盛り上がってきたりするだけでも怪しげだが、それにとどまらず、鹿の化身が人間に復讐したり、憑依して体を乗っ取ったりと、物語は自由奔放に展開するのである。毛利軍を倒すために黄泉の国に行って神々の力を借りようというのだから、伝奇小説は楽しい。

 我が国の時代小説には、国枝史郎著「蔦葛木曽棧」や、柴田錬三郎著「赤い影法師」などの伝奇小説の伝統があるが、その正統的な嫡子として読まれたい。最近この手のものが少なかっただけにうれしい。

(毎日新聞出版 1900円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人がもしFA3連敗ならクビが飛ぶのは誰? 赤っ恥かかされた山口オーナーと阿部監督の怒りの矛先

  2. 2

    大山悠輔が“巨人を蹴った”本当の理由…東京で新居探し説、阪神に抱くトラウマ、条件格差があっても残留のまさか

  3. 3

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  4. 4

    大山悠輔に続き石川柊太にも逃げられ…巨人がFA市場で嫌われる「まさかの理由」をFA当事者が明かす

  5. 5

    織田裕二がフジテレビと決別の衝撃…「踊る大捜査線」続編に出演せず、柳葉敏郎が単独主演

  1. 6

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 7

    ヤクルト村上宗隆と巨人岡本和真 メジャーはどちらを高く評価する? 識者、米スカウトが占う「リアルな数字」

  3. 8

    どうなる?「トリガー条項」…ガソリン補助金で6兆円も投じながら5000億円の税収減に難色の意味不明

  4. 9

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  5. 10

    タイでマッサージ施術後の死亡者が相次ぐ…日本の整体やカイロプラクティック、リラクゼーションは大丈夫か?