「アイデンティティが人を殺す」アミン・マアルーフ著 小野正嗣訳
レバノンに生まれ、27歳でパリに移住した著者は、複数の国、言語、文化的伝統の境界を生きてきた。これが氏のアイデンティティーなのだが、よく「自分のいちばん深いところでは、自分を何者だと感じているのか」と問われる。その人が帰属する唯一のものは、生まれながらに定まり変化することはないという考え方からだ。
昨今、宗教や人種、民族などの「本質的な帰属なるもの」=「自分のアイデンティティーを表明する」ことが求められることが増えた。しかし、それは複雑なアイデンティティーを持つ者がのけ者にされることになる。人が宗教的または民族的、その他もろもろのアイデンティティーという名のもとに数々の罪を犯すのはなぜなのかを考察した名エッセーの邦訳。
(筑摩書房 1100円+税)