社会派ミステリー「十二の眼」一雫ライオン氏掲載直前インタビュー

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 俳優、脚本家を経て、小説家デビューをして以来、猟奇連続殺人事件や大人が読む恋愛小説、エモーショナルミステリーなど、さまざまなテーマ、ジャンルで作品を紡いできた一雫ライオン氏による初の連載小説「十二の眼」が来月2日からスタートする。女性アナウンサー殺しから始まった不可解な声明文。麻布署の中年と女性若手刑事がバディーを組み、時代を超えて事件を追う社会派ミステリーだ。

  ◇  ◇  ◇

 時は2024年。真夜中2時、六本木の路地裏で、人気女性アナウンサーが遺体で発見された。無線を聞いた麻布署強行犯捜査二係の庄子警部補と、非番だった新人女性刑事一ノ瀬林檎はそれぞれ現場に向かう。遺体は十文字に裂かれており、一見、恨みの犯行を思わせた。しかし、何しろ被害者は男性ファンも多い有名人だ。おかしなやからが勝手な妄想を抱いたとしても不思議ではない。

 6月の蒸すような湿度、六本木の喧騒、事件をかぎつけた記者たち……。物語の幕が開く。

「六本木で女性アナウンサーが殺害されるところから物語を始めよう。昨年末には、そう決めていたんです。女性アナウンサーを登場人物に選んだのは、昔に比べて“立ち位置”が難しい時代になっているんじゃないかと思ったからでして、昔は華があればよし、としたものが、今は元気でかわいいだけでは許されなくなっている。さらにタレントではないけど、テレビに出ていることで嫉妬されやすい。SNSが普及した現代社会では叩かれやすい職業の一つかもしれないですね」

 主人公のひとり、50歳の庄子はつい「女子アナ」と言ってしまう昭和の香りが漂う男。一方、平成生まれの林檎は明るく、繊細な機微もわかるキャラクター。そこに元公安の堂前汐音警部補45歳が加わり、“異色”チームで事件解決に向かう。犯人の動機は何なのか──。

「防犯カメラ天国」東京での事件はすぐに解決すると考えられたが、思いがけぬ方向へと展開していく。一斉に各テレビ局に声明文が届いたのだ。送り主は「4×3」。

「声明文を送ってきた人物は、誰なのか? なぜこのような数字で名乗ったのか? このあたりも事件が進んでいく鍵になるかもしれません。昭和や平成はいまよりテレビの生放送も多く、僕が記憶している限りでも、アクシデントも多々ありました。それが魅力的だったとも言えるのですが、時には視聴者が肝を冷やすような場面もあったりして。今作は、そのあたりも物語のヒントにしています」

「4×3」からのメッセージは次々と届いていく。テレビ局がその報道姿勢を世間に批判される中、ようやく糸口を掴んだ庄子たちは過去と現在とをつなぐ事件の真相を追う。

 作中、昭和から平成にかけての舞台になるのは六本木や西麻布、そしてある地方都市だ。六本木や西麻布は氏が中学生の頃から出入りしていた場所で、キラキラと華やいだ空気感の中に渦巻いていたもの、怪しげな気配など、大人でなかったからこそ嗅ぎ得た世界を活写する。そしてそこには犯人との関係が……。

「前作の『流氷の果て』もそうなんですが、今と過去とを結び付けていく構成が好きなんです。今作も、殺害事件の裏には何らかの過去があった。僕は小説上では罪を犯すだけの悲しい理由があってほしいと思うタイプなので(笑)、“物語のある犯罪”を楽しみにしていてください」

 テレビやマスコミが元気で世の中の中心だった時代背景が物語に大きく関わってくることは間違いないが、テーマに据えているのは「家族」、そして「変化」だという。

 メディアの在り方、評価、人の思い。変わらなければならないもの、変わってはいけないものなど、さまざまな対比が物語を通して浮かび上がってきそうだ。

 物語は庄子と林檎、中盤からは犯人と、3人の視点で交互に描かれる。登場人物たちはみな家庭や仕事の悩みを抱えており、わが身と重ねて読む読者もいるだろう。

「明日はどうなるんだろうと楽しみに読んでいただけたらうれしいです」

 単なる謎解きでは終わらない、重厚な人間ドラマをお楽しみに。

▽一雫ライオン(ひとしずく・らいおん) 1973年、東京都出身。明治大学政治経済学部2部中退。俳優としての活動を経て、演劇ユニット「東京深夜舞台」を結成後、脚本家に。数多くの作品の脚本を担当後、2017年に「ダー・天使」で小説家デビュー。21年に刊行した「二人の嘘」が話題となりベストセラーに。著書に「スノーマン」「流氷の果て」などがある。

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