「脂肪と人類」イェンヌ・ダムベリ著 久山葉子訳

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「脂肪と人類」イェンヌ・ダムベリ著 久山葉子訳

 ダイエットの大敵は脂肪で、健康を維持するには低脂肪・脂肪カットの食事を心がけるべきだ、というのは現代ではほぼ常識のようになっているが、そもそも人類にとって脂肪は生存に欠かせないものだ。ホモ・エレクトスの食事がほかの霊長類より脂の多いものだったからこそヒトの脳が大きく成長できたのだとする説もある。古来脂肪をめぐる論議には、政治、宗教、国民性、性的役割、文化などさまざまな面が映し出されている。本書はそうした人類と脂肪の複雑な関係をたどっている。

 今の食肉業界では脂肪が多い肉ほど安い値がつくが、狩猟採集時代にあっては赤身の肉は価値がなかった。タンパク質のみを分解してエネルギーを得るのは非効率的だし、長期的には肝臓や腎臓などの臓器に害を与えるからだ。バターは神々の食べものと称され、世界各地で愛用された脂肪食品だが、19世紀、フランスのナポレオン3世は深刻な脂肪不足を解消するために「安価なバター用品を発明した者に多額の報酬を与える」というお触れを出し、そこで生まれたのがマーガリンだ。

 このように好まれてきた脂肪だが、20世紀後半になると飽和脂肪酸とコレステロールが心血管疾患を引き起こす犯人として名指しされ一気に悪玉に転落する。デンマークでは飽和脂肪酸含有量が一定量を超える食品に税金を課す「脂肪税」まで登場した(わずか14カ月で廃止)。

 本書でも繰り返し語られているが、「脂肪」といってもその種類は多種多様で、丹精込めて作られた良い脂肪もあれば、機械的に量産された悪い脂肪もある。要は脂肪に限らず良いものをいかに選別するかが肝要ということだ。著者は言う、「何より肝心なのは--脂肪は美味しい! その点に関しては前史以来何一つ変わっていない」。巻末には著者が厳選した全30種の「脂を使った美味しいレシピとテクニック」が付されている。 〈狸〉

(新潮社 2200円)

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