賃貸住宅の営業手法が「押しの一手」から「褒めの一声」へと様変わりした理由
2025年1~3月の首都圏における賃貸住宅市場は、需要と供給のミスマッチが深刻化している。東日本不動産流通機構(REINS)のまとめによると、この期間に新たに契約が決まった部屋の数は前年を上回り、特に3月は2万8000件を超え、前年同月比で8.8%の大幅増加となった。繁忙期の後半にかけて、需要が大きく伸びたようだ。
一方で、新しく市場に出た賃貸物件の数は前年より少なく、仲介会社の現場では「紹介できる物件が少ない」といった声が相次いでいる。この供給不足により、借り手にとって物件選択の幅が狭まり、競争が激化している状況だ。
需給逼迫により、家賃の上昇は加速している。アットホームが4月に公表した家賃動向調査によれば、東京23区の賃貸マンションでは、シングル向け物件で募集家賃が前年同月比で6.6%上昇、ファミリー向けでは同8.7%の上昇となり、値上がりが顕著だ。
こうした市場変化に加えて、借り手側の行動パターン自体も大きく変わってきている。賃貸仲介店の店長は語る。
「業界には、まず条件の悪い物件を見せて本命物件の価値を高める『見せ物(みせぶつ)』と、実際に契約してもらいたい『決め物(きめぶつ)』を使い分けて成約率を高めるテクニックがあった。しかし、現在の客層はポータルサイトで十分に物件を吟味してから問い合わせてくるから、従来の営業手法は全く通用しない。『こちらもおすすめです』と言っても、聞く耳を持たない」