「教養としてのヨーロッパの王と大思想家たちの真実」副島隆彦/秀和システム(選者:佐藤優)
混乱を極める欧州を理解するのに最適な一冊
「教養としてのヨーロッパの王と大思想家たちの真実」副島隆彦/秀和システム
去年刊行された書であるが、現下混乱を極めているヨーロッパを理解するのに最適の作品なので、あえて紹介することにした。副島隆彦氏は本書の目的についてこう記す。
<本書『教養としてのヨーロッパの王と大思想家たちの真実』は、ヨーロッパの1500年代(16世紀)からの近代300年の歴史を描く。この1冊で大きくヨーロッパとは何か、が分かる教養書の振りをして作られる。だが、それは見せかけです(笑)。文化教養本の振りをするが、本当は、人類(人間)史の一部の、隠されたあれこれの大きな真実を、私がこの本でもドカーンと暴き立てる「真実暴きの破壊的な内容の本」である>
真実暴きの一例がルターの宗教改革だ。
<マルティン・ルターは僧侶なのに尼僧たちにも子供を生ませた。豪快な男だ。プロテスタント運動の真髄は「男女の愛を認めよ」(性欲の自由)の闘争だった>
評者はプロテスタント神学者でもあるが、副島氏の見方は正しい。ルターは聖職者の妻帯を認めただけでなく、教会が信者に課していた性生活に対する制限(性交可能な日や体位の規制)なども徐々に撤廃していった。
副島氏は、ルターが金儲けを解禁したと記すがこれも正しい。高利貸を除く経済活動をルターは奨励した。宗教改革により新しい人間観が生まれた。
副島氏の作品には独特のスタイルがある。
<私が書く本は、やや雑駁で粗雑であるが、仕方がない。おカネも時間も、暇も体力もなしでずっと書いて来た。自分の持てるこの鋭い頭と口と手だけで。読者に分かってもらう為にはガツーンと単純化して大風呂敷を広げて書く。己の文章を彫琢し、ギリギリ単純な思想にまで結実させるのは大変な(脳の)苦闘だ。私はこれをやってきた。こうやって筆一本でもの書き人生40年を生きて来た>
どれだけ知的に優れた本を書いても読者が得られなければ、それは紙の上についたインクのシミに過ぎなくなってしまう。常に読者にどうすれば伝わるかを考えながら執筆する副島氏の姿勢から評者も多くを学んでいる。 ★★★
(2025年5月29日脱稿)