著者のコラム一覧
碓井広義メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶應義塾大学助教授などを経て2020年3月まで上智大学文学部新聞学科教授。専門はメディア文化論。著書に「倉本聰の言葉―ドラマの中の名言」、倉本聰との共著「脚本力」ほか。

NHKスペシャル「未解決事件~逃亡犯へ 遺族からの言葉」オンエア直前に番組と現実がリンクした

公開日: 更新日:

「こんなことが起きるのか」とびっくりした。番組と現実の際どいリンクだ。1日に放送されたNHK「未解決事件~逃亡犯へ 遺族からの言葉」である。

 いつもは1件の未解決事件を取り上げ、過去の経緯から現在の状況までを分析。独自の解釈や推理を展開していく。

 だが、この日は特別編が予定されていた。遺族などをスタジオに招き、複数の事件の概要を伝えたうえで、視聴者から「情報提供」を募るという内容だ。26年前の「名古屋主婦殺害事件」もその中に含まれていた。

 ところが放送前日の10月31日、69歳の女が殺人容疑で逮捕されたのだ。しかも容疑者は被害者の夫・高羽悟さんの高校時代の同級生で、同じ部活のメンバーだった。制作陣も驚いただろう。高羽さんはVTR出演だけでなく、スタジオでも心境を語っていたからだ。

 詳細がまだ不明な中で新たな事態をどう伝えるのか。最終的には、画面右上に「容疑者が逮捕された」と文字で表示。加えて愛知県警による会見や高羽さんへの最新インタビューなどもしっかりと入れ込んでいた。

 この高羽さん、事件が起きたアパートの家賃を払い続けることで、26年間も「現場保存」してきた。また殺人事件の時効撤廃運動に長年取り組んだ人物だ。「どういう理由で自分の家族が殺されたのかを知りたい」という執念こそが現実を動かしたのかもしれない。

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