著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「土に贖う」河﨑秋子著

公開日: 更新日:

 特異な作品集だ。舞台は北海道の札幌、根室、北見、江別。時代は明治から昭和まで。登場するのは、一度は栄えながらも衰退した産業に携わる人間たちだ。

 たとえば表題作は、レンガを生産する工場で働く人間を描く短編である。札幌近郊の江別町、野幌地区では表面の土を削るだけで豊富な粘土がすぐに現れた。さらに豊かな森林にも恵まれていて、燃料の薪にも事欠かない。そして札幌にも近いので、レンガ生産の地として適していた。家畜飼料の貯蔵庫であるサイロの建材にもレンガは広く必要とされていたから、明治24年に最初のレンガ工場が造られたのを皮切りに、続々と工場が増えていった。実は令和の今でも、江別でレンガの製造は続けられている。しかし、一大産業であった昔に比べると、小さな物づくり用だ。

 そういう時代の変化が背景にあるので、なんだか物悲しい。レンガ工場で働く者たちの毎日を克明に描いていくので、ささやかな労働の喜びと汗のにおいが行間から立ち上がってくるのだ。

 なくなってしまったものもある。それがミンクの飼育だ。終戦直後に、道内各地で大小のミンクの生産業者が起業し、根室には当時東洋で最大といわれる大規模な業者もいたという。父親の家業を継いで、ひとりでミンクを生産していた青年は、どこへ行ったのだろう。読み終えると、それが気になってくる。

(集英社 1650円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高市首相、病気を理由に辞任? 囁かれるショートリリーフは麻生指名で「茂木敏充」か

  2. 2

    阪神1位・森下翔太を英才教育 父親が明かす「マイホーム購入の判断も野球ありきでした」

  3. 3

    中傷動画疑惑めぐる高市首相「虚偽答弁」の“証拠”出た! 木下剛志秘書の「回答書」公開され万事休す

  4. 4

    阪神・森下翔太がファンから「態度悪い」と非難されるワケ…球宴中間投票セパ最多21万票なのになぜ

  5. 5

    文春が報じた中居正広「性暴力」の全貌…守秘義務の情報がなぜこうも都合よく漏れるのか?

  1. 6

    野村監督は事実上の“解任”だった 仮にCS突破で日本一になったとしても未来はなかった

  2. 7

    嵐活動終了で松本潤との「結婚待望論」再燃も…キッパリ否定の井上真央が送る“幸せシングルライフ”と結婚観

  3. 8

    「中傷動画」疑惑で高市首相またブチ切れ答弁連発し逃げ切り画策も…露呈した重大な“落とし穴”

  4. 9

    もはや誰が見ても一目瞭然 高市早苗はオツムも器も「首相失格」

  5. 10

    個人情報保護法“改悪”であなたの医療情報はAI開発にダダ漏れ デジタル大臣「氏名削除難しい」と詭弁で居直り