著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ヒールをぬいでラーメンを」栗山圭介著

公開日: 更新日:

 IT企業をクビになり、公私ともにどん底を味わったヒロインが、絶対に見返してやるとラーメン屋開業を決意するところから始まる物語である。

 そのヒロイン、門阪有希は、まず麺作り学校に通いだす。同期入学した20人の中で、女性は有希を含めて2人だけ。中学を卒業したばかりの男子から定年退職した元サラリーマンまでさまざまだ。そこである程度のことを学んだヒロインは、次に実際のラーメン店でアルバイトしながら「修業」する。

 つまりこれは、昨今はやりの「お仕事小説」である。ラーメン屋を始めるにあたって、いちばん大変なことは何か。何が重要なのか。どういうふうに学んでいくのか。「お仕事小説」の定石通りに、そういう細部が、これでもかこれでもかと描かれていくので、大変に面白い。

「お仕事小説」がこれだけ読まれているのは、具体的なことを、細かなことまで含めてすべて知りたい、という読者が増えているからだろう。現代はディテールの時代だ、ともいえるのである。そういう読者の期待に、本書は十分にこたえると思う。

 しかし、本書の魅力はそれだけではないことだ。アルバイト先のラーメン屋「花水木」の従業員たちとの確執と和解を見られたい。そういう人間的要素が濃い、感情が濃い。これが本書の魅力で、この物語にどんどん引き込まれていくのもそのためである。

(角川春樹事務所 1600円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  2. 2

    阪神・佐藤輝明にライバル球団は戦々恐々…甲子園でのGG初受賞にこれだけの価値

  3. 3

    FNS歌謡祭“アイドルフェス化”の是非…FRUITS ZIPPER、CANDY TUNE登場も「特別感」はナゼなくなった?

  4. 4

    阪神異例人事「和田元監督がヘッド就任」の舞台裏…藤川監督はコーチ陣に不満を募らせていた

  5. 5

    新米売れず、ささやかれる年末の米価暴落…コメ卸最大手トップが異例言及の波紋

  1. 6

    兵庫県・斎藤元彦知事らを待ち受ける検察審の壁…嫌疑不十分で不起訴も「一件落着」にはまだ早い

  2. 7

    カズレーザーは埼玉県立熊谷高校、二階堂ふみは都立八潮高校からそれぞれ同志社と慶応に進学

  3. 8

    日本の刑事裁判では被告人の尊厳が守られていない

  4. 9

    1試合で「勝利」と「セーブ」を同時達成 プロ野球でたった1度きり、永遠に破られない怪記録

  5. 10

    加速する「黒字リストラ」…早期・希望退職6年ぶり高水準、人手不足でも関係なし