「タネの未来」小林宙著

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 2018年4月、稲、麦、大豆等の主要作物の種子開発を地方自治体に委ねることを定めた「種子法」が廃止され、民間企業の参入が認められた。続いて農家による種子の自家増殖の制限を強めようとする「種苗法」の改定が進められたり、これまで関心を寄せることのなかった「タネ」の存在がここにきて注目を集めている。とはいえ、種子=タネについて何を知っているのかといわれれば、甚だ心もとない。この未知のタネの世界へのよき導き手となるのが本書だ。

 案内人は現在高校2年生の宙(そら)くん。中学3年生でタネの流通・販売を手がける会社を起業した。小学校中学年からタネの世界に魅せられ、最初はキクなどの花を栽培していたが、強度の食物アレルギー(小麦、乳製品、卵、ソバ、ゴマ等)があったため、自分が食べられる野菜を育てる方向に転換。それも自宅屋上のプランターから始まり、群馬県伊勢崎市に畑を借りて本格的に野菜作りするまでに。

 これだけなら珍しくはないが、宙くんは野菜作りの傍ら古い農業書を読み漁り、日本の伝統野菜のことを学ぶ。その伝統野菜が消滅の危機に瀕していることを知り、自分の手でそのタネを未来に残して全国に流通させたいと思い、周囲の協力を得て会社を起業する。多様なタネを残すことは、多様な文化を残していくことだ、という信念のもとに。

 わずか15歳で、と驚くが、宙くんのように短期間にひとつのことに集中して懸命に考えれば、中学生であっても普遍的な考えに至っても不思議ではない。しかし、それを実践するのはまた別。いくつものハードルを越えて自分の夢を実現した宙くんの、自分たちが食べる物のタネがいかに大事かという言葉がストレートに刺さる。未来の宙くんが何をするのか楽しみだ。 〈狸〉

(家の光協会 1600円+税)

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