「絶望の林業」田中淳夫著

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 近年、「林業の成長産業化」ということがいわれている。日本の林業というと、専業従事者が高齢化し後継者不足、森林面積は減少傾向……。そんな斜陽産業の印象があった。

 ところが今、木材自給率は上昇し、使い道のなかった間伐材などが合板材料として活用され、バイオマス発電の燃料用に木材が使われ、林業に参入する若者も増えているという。これだけ見ると前途洋々といった感じだが、長年森林ジャーナリストとして日本の林業の現場を見てきた著者は、そうした楽観論に冷水を浴びせる。

 著者は日本の林業が抱えている問題を一つ一つ検証し、その現状を具体的に描いていく。

 例えば国産材は高価で、安い外材に押されているというイメージが流布しているが、実際は国産材の原木価格は低落傾向にあり、ユーザーレベルでも国産材と外材の価格差は1割程度に過ぎない。また労働災害千人率(1000人あたりの死傷率)を見ると、全産業の平均2・2に対して林業は32・9というずぬけた高率で、この原因は現場の安全意識や教育レベルの低さ、森林や林業の知識不足が挙げられる。業界の希望を託すべきバイオマス発電は違法操業のオンパレードで、国産材を世界一安価で輸出する愚、さらには補助金漬けでモラルハザードを引き起こす等々、まさに「絶望」としかいいようのない実態が次々と明らかにされていく。

 著者が繰り返し指摘するのは、森林という生態系を経済的効率でコントロールすることは不可能だということだ。もし、希望を託すとすれば、木材、動植物に限らず、水や空気といった森林空間が生み出す全体的な生産物を持続的に維持していくことだという。ここで問われているのは林業を超えて、日本社会が抱える構造的問題である。

 <狸>

(新泉社 2200円+税)

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