読んで損ナシ!最新大人のマンガ特集

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「村上春樹の『螢』・オーウェルの『一九八四年』」マンガ/森泉岳土

 年明けからはや1カ月。ダッシュをかけてきた人もホッと一息つく時期だろう。そんな時にお薦めなのが、気楽に読める大人向けのマンガ。文学を原作にしたものから、独特の世界感を表したもの、哲学を描いたものまで5冊を紹介。



 村上春樹の短編「」とジョージ・オーウェルの長編「一九八四年」を原作にした2編のマンガを収録。「」は1984年に刊行され「ノルウェイの森」の基になった小説であり、一方の「一九八四年」は1949年に発表された風刺SF小説。ともに1984年の世界を描く。

「一九八四年」の作品の舞台は、核戦争後、3つの大国に分割されたうちのひとつ、オセアニア。ビッグ・ブラザーと呼ばれる独裁者に支配された全体主義国家で、国民は思想や言論を厳しく規制され、あらゆる場所に設置されたテレスクリーンで常に監視されている。歴史を改ざんし、人の内面にまで入り込み、恋人たちは翻弄されていく。

「螢」は、友人の死がもたらした精神的な打撃をじわじわと受ける「彼女」と「僕」が描かれ、2作とも愛を巡る物語が紡がれている。

(河出書房新社 1100円+税)

「剣士のような天使をつれて」黒鉄ヒロシ著

 天空にある誕生から死までの「人生の道」に一人の侍が迷い込んだ。天の主に「来た道を戻れ」と言われたが、途中で飛び降りてしまう。「架空の世界」であるそこには、丹下左膳、作者・クロガネ氏がおり、皆で一杯飲もうと、ホテルのバーに出かける。

 バーでは、ジョン・レノンがポールたちと一緒に演奏し、西部氏、阿佐田氏、吉行氏らが次々と登場。「お亡くなりになったのでは?」とクロガネ氏が問いかけると、見知らぬ男が「死者は生者の記憶の中に生きている。死者はいわば音楽のようなもの……」と答え、死者が音符に変わっていく――。(「墓Bar」)

 古今東西の著名人が登場しながら、「死」「無限大」など哲学のテーマを縦横無尽に語るコミック仕立てのエロチカ物語。

(A&FBOOKS 1900円+税)

「あなたのアソコを見せてください」いがらしみきお著

 ミコが初めて男性のアソコを見たのは3歳の時。母の弟、竜三おじさんと一緒にお風呂に入っていると、母屋で火事が起きた。それを見るおじさんのアソコが起立していたのだ。以来、ミコは火を見ると興奮するようになる。

 やがて高校を卒業したミコはコンビニで働きだすが、店長はオムツマニア、元刑事の常連客ピンさんは女装趣味、新米アルバイトはロリコンと、周囲は変態ばかり。

 最初は毛嫌いしていたミコだが、ピンさんに「変態クラブ」への参加を持ち掛けられ、その世界をのぞき見するようになる。

 そんなある日、ミコの周囲でボヤが続いた。ピンさんは元刑事の勘で、河川敷にミコを呼び出す……。

 日本漫画家協会賞優秀賞受賞の経歴を持つ著者の画業40周年記念作品集。セックスの根源に肉薄する渾身の大作だ。

(太田出版 1600円+税)

「まんが『火の鳥』に学ぶネガティブな世界からの羽ばたき方」手塚治虫著

 著者が晩年までライフワークとして描き続けた長編マンガ「火の鳥」。

 その血を飲めば永遠の命が手に入るとされる「火の鳥」の名シーンとともに、尽きることのない欲望や心を惑わす怒りなどにうまく付き合い、ネガティブな世界から脱却するヒントを紹介していく。

 黎明期の主人公ヤマタイ国の女王・ヒミコは、老いていく自分が受け入れられず、あらゆる手段を使って火の鳥を捕まえようとする。

 しかし手に入らず、永遠の命に執着したまま、死を迎える。そんな姿から、「永遠に執着すると人生は辛い」、ただし「手に入れたものは譲る、受け継ぐ」の気持ちが生まれると、毎日の景色が変わって見えると紹介。

 他にも「どんな道を選んでも後悔は必ずある」(ヤマト編)、「幸せは人間関係の中にしかない」(未来編)など、日々の中に幸せを見つけるヒントを伝える。

(プレジデント社 1300円+税)

「ザ・うらたじゅん 全マンガ全一冊」うらたじゅん著

 昨年、64歳の若さで亡くなった「不世出の不思議な女性漫画家」である著者が、約40年間に発表した全作品百数十点を無削除完全収録。

 初期の作品のひとつ「あきこあきおぶるうす」は、社会に反抗している10代後半の男女の物語。飲み屋で知り合った秋男と秋子は、見知らぬ部屋で目を覚ます。少しずつ互いのことを語り合う2人だが、金も行くあてもなく、ヒッチハイクでY市へと向かう――。

「シーサイドホテル」は、著者の体験に基づいた物語で、石垣島の港に寝泊まりする若者の姿を描いた中期の作品。不器用に生きることしかできない者たちに注がれる温かい目線が印象的だ。かと思えば、友人の女房とのセックスライフをつづる「桜葉の散る森」などの作品もあり、全体を通して見えてくるのはノスタルジーとエロチシズムである。懐かしい気分になる作品の数々は必見だ。

(第三書館 2800円+税)

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