「断薬記」上原善広著

公開日: 更新日:

 ノンフィクション作家であり大宅賞を受賞した経歴も持つ著者は、2010年10月、うつ病と診断される。本書は、長い投薬治療を経て自ら減薬に挑み、ついには断薬に至った作家の闘いの私記である。

 投薬治療を受けながら3度も自殺未遂を起こしていた著者が、“何かがおかしい”と気づいたのは16年のこと。双極性障害Ⅱ型と診断されて以降、睡眠薬や抗不安薬、抗うつ薬など、医師による処方薬を1日に5~8種類も服用していたが、症状は一向に改善されなかったという。

 治っていないどころか逆に状況は悪化し後退しているとはっきりと自覚したのは、ある日の受診時だ。「いつも眠いし細かなミスを連発してしまう」と主治医に相談したところ、返ってきたのは「多分、統合失調症だと思う」という言葉。つまり6年も経って、突然診断が変わったわけだ。

 長年大量の向精神薬や睡眠薬を服用していると、薬のせいで幻覚や幻聴など統合失調症のような症状が出るケースも少なくないという。この出来事をきっかけに、自身の症状は薬害によるものだと自覚し、ついに著者は減薬を決意する。

 ところが、減薬を指導してくれる病院を探してもなかなか見つからず、あっても保険の利かない自費診療や、診察まで何カ月も待たなければならないという状況だった。そこで薬について徹底的に調べあげ、依存度が強く激しい離脱症状で知られる抗不安薬のデパスと睡眠薬代わりのハルシオンから始め、自己流で減薬を強行することになった。

 襲い来る離脱症状、信頼できる専門医との出会い、運動療法や湯治など、試行錯誤の過程が詳細につづられる本書。精神医療の在り方も考えさせられる。

(新潮社 720円+税)

【連載】長生きする読書術

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    新生阿部巨人は早くも道険し…「疑問残る」コーチ人事にOBが痛烈批判

  2. 2

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  3. 3

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  4. 4

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  5. 5

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  1. 6

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  2. 7

    維新・藤田共同代表にも「政治とカネ」問題が直撃! 公設秘書への公金2000万円還流疑惑

  3. 8

    35年前の大阪花博の巨大な塔&中国庭園は廃墟同然…「鶴見緑地」を歩いて考えたレガシーのあり方

  4. 9

    米国が「サナエノミクス」にNO! 日銀に「利上げするな」と圧力かける高市政権に強力牽制

  5. 10

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性