著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「インビジブル」坂上泉著

公開日: 更新日:

 昭和29年の大阪を舞台にした長編である。主役は、大阪市警視庁の巡査新城洋と、国警大阪府本部警備部の守屋恒成警部補。この「大阪市警視庁」と、「国警大阪府本部」をまず説明する。

 日本を占領したGHQは、警察を解体し、米国式の自治体警察、通称「自治警」と、国家地方警察、「国警」の2本立てに再編した。そのとき発足した大阪市の自治警が警視庁の名を冠することになったというわけ。つまり、戦後の一時期、警察は自治警と国警の2つに分かれていたということだ。

 当然、仲が悪い。さらに、新城は捜査畑一筋であるのに対し、守屋は左翼摘発が専門の警備部。決して捜査が専門ではない。おまけに中卒の新城に対し、守屋は帝大卒のエリートだ。この2人がなぜかコンビを組んで、連続殺人事件の捜査に取り組む、というのが本書だ。

 街を歩けば、旧陸軍砲兵工廠跡を通りかかるし(この地で雨ざらしになっていた金属類を漁る人間たちを描いたのが、開高健著「日本三文オペラ」で、それをデフォルメしたのが小松左京著「日本アパッチ族」だ)、戦争の痕跡がまだ生々しく残る大阪の街がとてもリアルに描かれている。出自も性格も異なる2人がコンビになるというのは「バディーもの」の常套ではあるが、この作者、なかなかにうまい。2019年に西南戦争を描いた「へぼ侍」で松本清張賞を受賞した著者の第2作だが、今回も快調だ。 (文藝春秋 1800円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「おまえになんか、値がつかないよ」編成本部長の捨て台詞でFA宣言を決意した

  2. 2

    福山雅治&稲葉浩志の“新ラブソング”がクリスマス定番曲に殴り込み! 名曲「クリスマス・イブ」などに迫るか

  3. 3

    年末年始はウッチャンナンチャンのかつての人気番組が放送…“復活特番”はどんなタイミングで決まるの?

  4. 4

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  5. 5

    やす子の毒舌芸またもや炎上のナゼ…「だからデビューできない」執拗な“イジり”に猪狩蒼弥のファン激怒

  1. 6

    羽鳥慎一アナが「好きな男性アナランキング2025」首位陥落で3位に…1強時代からピークアウトの業界評

  2. 7

    【原田真二と秋元康】が10歳上の沢田研二に提供した『ノンポリシー』のこと

  3. 8

    査定担当から浴びせられた辛辣な低評価の数々…球団はオレを必要としているのかと疑念を抱くようになった

  4. 9

    渡部建「多目的トイレ不倫」謝罪会見から5年でも続く「許してもらえないキャラ」…脱皮のタイミングは佐々木希が握る

  5. 10

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」