知れば知るほど奥深い 生き物の本特集

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「新装版 タネはどこからきたか?」鷲谷いづみ著 埴沙萠写真

 地球にすむ生き物には、まだまだ謎がいっぱいだ。進化の歴史や体の中に組み込まれた生きるための仕組みや工夫は、知れば知るほどよくできていて奥深い。今回は、恐竜からひと粒の種の不思議、そして絶滅危惧種の再生まで、それぞれの世界に浸れる5冊を紹介する。



 地面に根を張り動かない植物も、タネの時代は大冒険を繰り広げている。その様子をフルカラーの写真で紹介するのが本書だ。

 例えば、乾くとピストルのようにタネの弾丸を飛ばすタイプ。カラスノエンドウに代表されるそのタネには、余計な付属物がなく、コロコロと丸い形で飛んでいきやすい形状のものが多い。障害物さえなければ、時には数十メートルも飛んでいくというから驚きだ。

 一方、風に乗って移動するタネは空気抵抗を大きくして風に乗るための仕組みを持っている。タンポポに代表される冠毛、シラカバはパラグライダーのような両翼、片翼のみのクロマツはプロペラのようにくるくると回りながら飛んでいく。

 動物の力を借りるタネは、自身の発芽には使いきれないほどの栄養を蓄えている。ドングリがその代表で、動物を魅了して遠くの巣にまで運んでもらえるよう、脂肪をたっぷりと含んでいる。

 子孫を繁栄させるためのその工夫に脱帽だ。

(山と溪谷社 1400円+税)

「<正義>の生物学」山田俊弘著

 100万種以上の動植物が絶滅の危機にある現在。多くの人は“動植物を守らなければ!”と考えるだろう。だが、生物多様性を研究テーマとする著者は、なぜ生物の保全を行わなければならないのか、と問いかける。

 生態系が崩れるから、と答える人もいるだろう。しかし、生態系が崩れると何が良くないのか。その影響が人間にも波及するからか。つまり、人間に害が及ばないように生物を保全するということか。

 薬など人間の役に立つ動植物は数多い。その恵みを守るために保全するのか。しかし、この考え方は人間の役に立たない生物は守らなくてもよいという危うさと隣り合わせだ。

 本書では、トキやパンダを例に、生物保全の実態も解説していく。保全活動を一過性で終わらせないためには、保全の理由を考え抜くことが大切だと著者。地球史上最悪の大量絶滅時代を迎えている今、私たち人間は生物を守る意義と正面から向き合う必要がある。

(講談社 2200円+税)

「面白くて眠れなくなる恐竜」平山廉著

 世界各地で恐竜の発掘調査を行ってきた理学博士の著者が、恐竜の新常識について徹底解説する。

 恐竜と聞いてまず思い浮かぶのがティラノサウルス。凶暴でアグレッシブなハンターというイメージだが、実は狩りをするのは子供のうちだけだったという。

 多くの恐竜は一生体が大きくなり続けたが、脳の大きさはほとんど変わらなかった。とくにティラノサウルスは大人になると体長10メートルほどになったが、体に対し脳の割合が小さいことから、大人になるほど活発に動いて狩りを行うことが苦手になった。せいぜい、時速10キロほどの速さでしか動くことができなかったのではと本書。

 ならばエサはどうしていたのか。何と、ゆっくりと歩きながら他の恐竜の死体を見つけ、それを食べていたというのだからイメージと違いすぎる。

 他にも、トリケラトプスは頭が重すぎて走れなかった、始祖鳥が最古の鳥は誤りなど、常識を覆す恐竜の話が満載だ。

(PHP研究所 1400円+税)

「もしも虫と話せたら」じゅえき太郎絵 ペズル文 須田研司監修

 人類の誕生は約700万年前だが、昆虫が誕生したのは何と4億8000万年前。本書では、職場の人間関係に悩む青年・太郎が、生き物の大先輩である昆虫に悩みを相談。自然の鉄則を学ぶと同時に、昆虫の生態も知ることができるユニークな啓発書となっている。

 自分に自信が持てない太郎が出合ったのは、昆虫の人気投票では常に圧倒的首位を誇るヘラクレスオオカブト。鋭く長い角と世界で一番大きなカブトムシという長所を持ち、人気者になるために生まれてきたような昆虫だ。

 ところがヘラクレスオオカブトは、体が重すぎて飛ぶことが大の苦手。羽をバタつかせふらつきながら飛ぶさまは間違っても格好いいとは言えない。しかし、突き抜けた長所があれば、短所に注目されることはないと言うヘラクレス。自分のアピールポイントを知り、存在感を際立たせよと太郎にアドバイスする。

 生きづらい世の中を生き抜く方法を、昆虫の生態から教えられる。

(プレジデント社 1300円+税)

「マンモスの帰還と蘇る絶滅動物たち」トーリル・コーンフェルト著 中村桂子監修 中村友子訳

 動物の細胞から核を取り出し、卵細胞の中に入れる。このような方法で行われる動物のクローンづくりは、近年難しい技術ではなくなっている。さらに、保存状態の良いマンモスを見つけ出して核細胞を取り出し、生きたゾウに移植するなど、「絶滅種再生」の研究も進んでいる。映画「ジュラシック・パーク」の世界は、おとぎ話ではなくなりつつあるわけだ。

 しかし、それは果たして人間が足を踏み入れてもいい領域なのだろうか。科学的ブレークスルーが起きることで他分野にも好影響が及ぶなど、大きなメリットも考えられる。一方で、現在の生態系に対し外来種のような悪影響を及ぼしかねず、新たな技術に人間の目がくらみ最善の用い方ができなくなるという可能性もある。

 本書は、最先端科学の研究を追ったノンフィクション。同時に、人間が生き物と自然の運命にどこまで踏み込んでよいのかという、重い問いも提起している。

(エイアンドエフ 2200円+税)

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