ノンフィクション&ルポ本特集

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「真夜中の陽だまり」三宅玲子著

 今話題の出来事や社会問題、そして歴史のはざまに埋もれてしまった事件を丹念な取材であぶり出すノンフィクション・ルポ本5冊をピックアップ。読まずに知らないままで生きるか、目を背けずに真実と向き合うか、選ぶのはあなた自身だ。



 九州一の歓楽街・中洲で、深夜2時まで子供を預かる「どろんこ保育園」。本書では、夜間保育園を利用する親子の人生を、3年にわたって見つめ続けた。

 亜希は22歳で未婚の母となった。近所の保育園に子供を預けてパチンコ店で働き始めたが、収入が厳しく、出産して数カ月で中洲に足を踏み入れるしかなくなった。母乳パッドからあふれた母乳の匂いと、汗とたばこの煙が混じり合う中で、しつこく体を触ってくる客にも笑顔で接した。そんな母親たちの告白も、夜間保育園のスタッフたちは受け止める。

 現在、認可夜間保育園は全国にわずか81カ所、定員の合計は3385人にとどまっている。シングルで子供を育てている女性は、中洲だけでも400人を下らないというから、どれだけ不足しているかは明らかだろう。

 日本の子育て支援や保育制度が、いかに現場と乖離しているかがよく分かる。

 (文藝春秋 1500円+税)

「電源防衛戦争」田中聡著

 1950年4月の国会法務委員会。社会党左派に属する猪俣浩三衆議院議員は、法務総裁にある質問を投げかけていた。発電・送電事業をただ一社で独占している日本発送電株式会社(日発)の総裁と前総裁が、恐喝と殺人未遂で告訴されている件の捜査が一向に行われていないのはなぜなのか、と。

 告訴していたのは、日本水力工業株式会社の加藤金次郎社長。実は、私財をなげうって建設した加藤氏の水力発電所が突如、官僚の押し切りで国家管理に移され、日発に統合されてしまった。そして、死者まで出しているという訴えだった。

 今日の電力供給体制が確立するまで、電力会社に付随するスキャンダラスな出来事は数多かった。本書では、さまざまな勢力がせめぎ合う中でつくり上げられてきた、日本の電力事業史をひもといている。

 (亜紀書房 1800円+税)

「死の海」後藤宏行著

 64年前に起こった海難事故を徹底取材したルポだが、“怪談話”が付いて回るというひと味違ったノンフィクションだ。

 昭和30年7月、三重県の中河原海岸では、橋北中学校の水泳の授業が行われていた。学校にプールが普及していなかった時代である。快晴の天気の中、約400人の生徒が水泳を楽しんでいた。

 ところが午前10時ごろ、突如として溺れだす女子生徒が続出し、その数は実に100人。異変に気付いた教員や男子生徒たちが直ちに救助に向かったものの、36人もの女子生徒が溺死してしまったのである。

 前代未聞の海難事故に、当然、学校側の「管理責任問題」が問われたが、一命を取り留めた女子生徒の証言が、事件を思わぬ方向へと導き始める。

「防空頭巾をかぶった何十人もの女たちに、足を引っ張られた……」

 事件の真相はどこにあったのか。マスコミ報道のあり方も含めてルポしている。

 (洋泉社 1800円+税)

「愛を知ったのは処刑に駆り立てられる日々の後だった」舟越美夏著

 2000年2月、ロシアはチェチェンの首都を占領し、「大規模軍事作戦の終了」を宣言。プーチンは狙い通りにロシア国民の支持を集め、同年の大統領選にも勝利した。

 しかし、チェチェンの独立派は国外の過激派組織と結束。プーチンが威信をかける14年のソチ五輪を阻止しようと、自爆テロを仕掛け続けた。

 このとき、テロの実行者としてターゲットとされたのが、夫や兄弟をロシア軍に殺され悲嘆に暮れる女性や少女たちだった。独立派は彼女らに「復讐」がいかに価値あることなのかを説き、洗脳するという手法を取った。兄を殺された女性は、「自爆すれば天国でお兄さんに会えるんだ」と言われたと話す。

 抗議の焼身自殺を図った少女や、10歳で初めて人を処刑した少年兵など、いまだ戦いの中に生きる人々の叫びをつづったノンフィクションだ。

 (河出書房新社 1850円+税)

「潜入ルポamazon帝国」横田増生著

 アマゾンの便利さの光と影を、現場に潜入し働くことで明らかにしているのが本書だ。著者はまず、倉庫内を回って棚から商品を集めるピッキング作業のアルバイト求人に申し込む。朝礼では、PTG(パーセンテージ・ツー・ゴール)85%以上が必達だとハッパをかけられる。ピッキング作業にはハンディー端末を使うが、ここに「次のピッキングまであと○秒」という表示が出る。その時間に間に合わなければマイナス1%となり、バイト全員の名前とPTGの順位が毎日、張り出されるのだという。

 目標達成のプレッシャーをかけられ、倉庫の中を1日2万5000歩以上、距離にして20キロ歩き回る。本書では、同社の物流センターで5年間に5人のバイトが死亡している事実もルポしている。宅配業者との攻防なども明らかにしている本書。実態を知らぬまま、便利さだけを享受していいものか考えさせられる。

 (小学館 1700円+税)

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