「廃用身」久坂部羊著

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 長期の寝たきりの状態になると、廃用症候群と呼ばれる心身のさまざまな機能低下が起こる場合がある。主な症状に、筋萎縮、関節拘縮、誤嚥性肺炎、血栓塞栓症、うつ状態、譫妄などがある。この状態に陥ると本人はもちろんのこと、介護者の負担も大きくなる。特に麻痺して回復の見込みがなく「廃用身」となってしまった手足は介護の枷となる。いっそこれらの手足を切ってしまえば患者・介護者双方の負担を軽減できるのではないか……。本書はこの禁断の領域に踏み込んだ問題作。

【あらすじ】漆原糾は、神戸の老人デイケアを中心とした老人医療施設「異人坂クリニック」の院長。漆原が目指すのは、患者の憂いを取り去ること。症状はあっても患者が幸福な気分でいればQOL(生活の質)が維持できる。

 そうした中、漆原は1人の患者に注目していた。妻と息子の3人で六甲山の豪邸に住んでいた岩上は2年前に脳梗塞で倒れ、下半身と左上肢が完全に麻痺していた。体重が90キロもあり、移動や服の着脱に骨が折れる。おまけに妻と息子から虐待を受けており、褥瘡の手当てなどを満足にしてもらえない。麻痺した手足は時に勝手な動きをして介護の邪魔になる。折しも左足が壊疽となり切断を迫られた。

 漆原は左足と一緒に右足と左手も一緒に切れば体重も軽くなり介護も楽になると言う。この思い切った提案を岩上にするとしばしの逡巡の後、岩上は承諾。手術はうまくいき、岩上も手足の痛みから解放されて性格も明るくなる。この岩上の成功を機に、漆原に自分の廃用身も切ってほしいと言ってくる患者が続出する……。

【読みどころ】長年、医師として高齢者・末期医療の最前線で患者と向き合ってきた著者の衝撃のデビュー作。<石>

(幻冬舎600円+税)

【連載】文庫で読む 医療小説

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