視野が広がる生き物本特集

公開日: 更新日:

「アナグマ国へ」パトリック・バーカム著 倉光星燈訳

 圧倒的な存在感で、ただ生命をつなぐ営みを繰り返す生き物たちを見ていると、人間社会のアレコレが小さなことのように思えてくるのではないだろうか。そこで今回は野生動物と人間社会の距離感、さまざまな動植物のユニークな名付けなど視野が広がる5冊をご紹介!

◇

 英国ガーディアン紙の記者である著者が、アナグマという種の受難を取り上げたネーチャーライティングの書。

 英国人にとって長年、アナグマは農作物を荒らす害獣だった。キツネは王侯貴族の狩りの対象として保護されたが、アナグマ狩りには何の規制もなかったため、残虐な扱いができる対象だったのだ。

 上流階級から搾取された労働階級の憂さ晴らしの対象としてアナグマが酷い扱いを受けた流れが変わったのが1908年。ケネス・グレアムが書いた児童文学「たのしい川べ」のキャラクターとしてアナグマが描かれたことがきっかけだった。しかしその後、アナグマの死骸から結核菌が発見されたことによって、駆除派と反対派の抗争が始まる。

 動物に対する共感と嫌悪を行き来する人間の姿が見えてくる。

(新潮社 3200円+税)

「野生動物のためのソーシャルディスタンス」戸川久美著

 動物と共存していく上で、人間はどのようなスタンスを取るべきなのか。本書は、イリオモテヤマネコを発見した動物作家・戸川幸夫の次女であり、認定NPO法人「トラ・ゾウ保護基金」の理事を務める著者が、自身の活動とその意味について解説したもの。

 本書を読めば現在、野生動物が置かれている状況の問題点はもちろん、こうした活動が単なる動物好きの活動ではなく、動物の生息域を守ることが、人間にとって大切な自然環境を守ることにつながることがわかる。

 野生動物のためのソーシャルディスタンスとは、人間と動物との物理的な距離ではなく、人間が野生動物との間で取るべき心の距離を指すという。むやみな保護や管理ではなく、野生動物の尊厳を尊重し、彼らの生息域から一歩引く人間側の知性が試されている。

(新評論 2200円+税)

「ママ、最後の抱擁」フランス・ドゥ・ヴァール著 柴田裕之訳

 知性や理論、言語を重視する一方で、情動や観察、非言語を軽視しがちな人間は、霊長類研究でもチンパンジーの権力闘争に注目することが多かった。しかし、本書の重要なテーマは争いの解決行動だ。「ママ」という名の雌のチンパンジーのリーダーとしての情動を軸に、仲直りや協力という側面に光をあてる。

 たとえば、2頭の雄が戦った後に仲直りできないことに気付いた「ママ」は、一方の毛づくろいをしてから、その雄を連れてもう一方の雄に近づき、しばらく3頭で一緒に座っている。機が熟すと「ママ」は立ち去り、残された2頭の雄が互いに毛づくろいをして和解するというのだ。

 本書は、前作「動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか」の姉妹編。霊長類研究を通して、独裁や分断が目立つ人間社会に警鐘を鳴らす。

(紀伊國屋書店 2400円+税)

「学名の秘密」スティーブン・B・ハード著 上京恵訳

 動植物の名前には一般名と学名があるが、学名を付ける際に特定の人物の名前を織り込んで命名する「献名」が行われることがある。動植物を発見した科学者の名前が使われることが多いが、時には芸能人やスポーツ選手、映画や小説の中の架空の人物の名前が使われていることもある。

 本書は、そんなユニークな名付けがされた動植物を紹介しながら、生き物はどのように分類され、命名されるのかを解説。加えて命名権の売買など、名付けにまつわる知られざる話を披露している。

 たとえば、長い足とオレンジ色の毛を持つクモ(イラスト)はミュージシャンのデビッド・ボウイから、丸くて金色のおしりを持つ新種のアブは、ビヨンセから名が付けられたという。一見堅苦しくも思える研究の世界だが、実はおちゃめな遊びに満ちている。

(原書房 2700円+税)

「生態学者の目のツケドコロ」伊勢武史著

 さまざまな生き物の普遍的な法則や機能に着目し、それらがからみ合う自然界の成り立ちを日々考える生態学者は、身の回りで起こる事象を生態学的な視点から眺めている。新型コロナウイルスの流行、レジ袋の有料化、晩婚化や少子化など、世界で起こるさまざまな出来事は、生態学者的視点からはどう読み解けるのか。

 たとえば、満員電車での通勤という行動は、高度成長期下では田舎で農業をするよりも経済的に安定するため生存に有利な合理的な選択だったが、世界を襲った新型コロナウイルスはこうした社会システムを根本的なところで揺さぶった。人間を中心とした現代社会という名の生態系は、安定しているかのように見えて不安定さを隠し持つ。環境を変化させる力を持った人間という生物の、これからの在り方を考えさせられる。

(ベレ出版 1600円+税)

【連載】ザッツエンターテインメント

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • BOOKSのアクセスランキング

  1. 1

    一度は行ってみたい世界遺産、飛鳥・藤原の宮都を知る本特集(2)遺跡から浮かび上がる古代人の日常

  2. 2

    一度は行ってみたい世界遺産、飛鳥・藤原の宮都を知る本特集(3)失われた宮都の景観をCGで再現

  3. 3

    一度は行ってみたい世界遺産、飛鳥・藤原の宮都を知る本特集(4)古代日本の礎を築いた6人8代の女性天皇

  4. 4

    女3人で「姦」、では、男3人「𪟧」は何と読む?「辞典には載っていない絶滅漢字図鑑」竹澤雅文(拾萬字鏡)著

  5. 5

    「すすきの近くの喫茶店でバイトしていたときに経験したのことを膨らませた物語です」──「HOTEL NIGHTHAWKS」小路幸也氏

  1. 6

    (65)扇の緑の松がちらちら見え隠れ

  2. 7

    一度は行ってみたい世界遺産、飛鳥・藤原の宮都を知る本特集(1)飛鳥はなぜ宮都に選ばれたのか

  3. 8

    当事者視点から学ぶ規格外を排除する社会の病「認知症の進行を早める生活、遅らせる習慣」丹野智文、恩蔵絢子著/中央法規出版(選者:稲垣えみ子)

  4. 9

    「その犬をください」逢坂冬馬著│明治から令和までの人間と犬の姿を描く連作集

  5. 10

    第15話:キラキラしている時計がボクを見ている

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    日テレ河村亮アナと菅谷大介アナは50代で死去…「俺たちの箱根駅伝」放送開始で改めて追悼の声

  2. 2

    元プリンセス プリンセス渡辺敦子さんは音楽ダンス学校の校長に 出身者には元乃木坂の白石麻衣も

  3. 3

    日本ハム助っ人レイエスに「70万ドル請求訴訟」 タティスJr.も敗れた“収入10%契約”の落とし穴

  4. 4

    紅白出場が確実視されるM!LKは「ソロ活動」増量中 塩崎太智に続く期待のメンバーとその“鬼門”

  5. 5

    巨人「第2次由伸政権」誕生なら前途多難…DeNAに3年連続CS敗退、監督経験者3人の“トロイカ体制”へ

  1. 6

    「豊臣兄弟!」史実改変騒動で露呈したNHK大河の限界 戦国時代を“こすりすぎ”のワケ

  2. 7

    “金目の人”舌禍の元自民先輩議員にも批判される「知恵袋のやなちゃん」のお粗末な品格

  3. 8

    萩本欽一〈53〉スポンサーなしで始めた番組に起きたウソのような偶然、「道端で出くわした人が桃屋の社長さんで…」

  4. 9

    簗農相の「更迭」に手間取る理由…与野党のどこの誰が反対しているのか

  5. 10

    高市首相3連休は公務入れずSNS三昧…簗問題はスルーし「毒キノコ対策」投稿で大ブーイング!

おすすめ求人情報

企業内の日常清掃/日勤/土日祝休み/週2日から勤務OK
株式会社グロウ・アップ 茨城県 神栖市 派遣社員
時給1,300円
有料老人ホームの日勤介護/未経験OK/週2日から/ブランク不問
福寿ふじさわ遠藤 神奈川県 藤沢市 アルバイト・パート
時給1,280円~1,390円
交通誘導警備スタッフ
成友セキュリティ株式会社 埼玉県 所沢市 アルバイト・パート
日給1万4,250円~1万6,750円
渋谷区内の公共施設の地下駐車場誘導スタッフ s142
株式会社サイオー 東京都 渋谷区 アルバイト・パート
時給1,300円~
Sponsored by 求人ボックス