著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「インナーアース」小森陽一著

公開日: 更新日:

 地図の制作会社を舞台にした「お仕事小説」というから、地図を作ることの大変さを描く小説なのか、と思った。

 地図を作るのは、伊能忠敬の昔から今に至るまで、それはもう大変なのである。その苦労と工夫を描くだけで十分な物語になる。

 ところが本書は、その王道パターンを取らない。最初から横にズレて、始まっていく。下関から北東約30キロ地点の日本海、その地下約20キロ地点に琵琶湖の半分ほどの大空洞が見つかったので、その空洞の地形図を作ってほしい――と地図の制作会社に依頼がくるのがこの長編の発端なのである。

 問題は、地下20キロまでどうやって行くのか、ということだ。たとえ行けたとしても酸素はない。水もない。地圧だってすごいし、地熱も数百度になる。そこで用意されたのは、「道行」と名付けられた乗り物だ。総全長59メートル、全高8メートル、重量3万6000トン。先端には円環があり、そこに無数のトゲのようなものが付いている。レーザーで岩を砕いて進んでいくのだ。中の居住区には個室があり、食堂兼リビングがあり、キッチンやシャワールームがある。というわけで、地図を作る職人たちの前代未聞の冒険が始まっていく。

 幾多のアクシデントを彼らが乗り越えていく、というだけでも十分に堪能できるが、途中から物語がもっとねじれていくから、素晴らしい。おお、いったいどこに行くんだ?

(集英社 858円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ヤクルト村上宗隆と巨人岡本和真 メジャーはどちらを高く評価する? 識者、米スカウトが占う「リアルな数字」

  2. 2

    大山悠輔が“巨人を蹴った”本当の理由…東京で新居探し説、阪神に抱くトラウマ、条件格差があっても残留のまさか

  3. 3

    中山美穂さんの死を悼む声続々…ワインをこよなく愛し培われた“酒人脈” 隣席パーティーに“飛び入り参加”も

  4. 4

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  5. 5

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  1. 6

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  2. 7

    豊作だった秋ドラマ!「続編」を期待したい6作 「ザ・トラベルナース」はドクターXに続く看板になる

  3. 8

    巨人・岡本和真の意中は名門ヤンキース…来オフのメジャー挑戦へ「1年残留代」込みの年俸大幅増

  4. 9

    悠仁さまは東大農学部第1次選考合格者の中にいるのか? 筑波大を受験した様子は確認されず…

  5. 10

    中山美穂さんが「愛し愛された」理由…和田アキ子、田原俊彦、芸能リポーターら数々証言