地形・地政から街を見る本特集

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「教養としての『地政学』入門」出口治明著

 やたらとモメ事の多い地域もあれば、なぜか人の集まる地域もある。地図だけではわからないが、地形や地理に注目するとその理由がわかることもある。そんな視点で書かれた本を読んでみよう。



 地政学とは「政治現象と地理的条件との関係を研究する学問」(広辞苑)である。例えば敵対する国に挟まれた国は、不安で不愉快な立場に置かれる。

 その一例がローマ市内にある小さな独立国、バチカン市国だ。フランク王国の初代ピピン3世が、ローマ教皇にティレニア海側からアドリア海側までの広大な土地を寄進したことから始まる。

 後に諸部族がヨーロッパに侵入したため、ローマ帝国はバルカン半島の東端にあるコンスタンティノープルに遷都し、ローマの人口は激減した。ローマ教会は移転せず、ローマに残ったが、コンスタンティノープル教会を中心とする勢力に妨害されて、東方への布教ができなかった。

 他に、鉄道や自動車の普及以前に盛んだった水路を利用した交易など、陸の地政学、海の地政学を解説する。

(日経BP 1980円)

「江戸の秘密」竹村公太郎著

 江戸時代以前、関東平野は利根川、渡良瀬川、荒川などが流れ込み、印旛沼や霞ケ浦という大湿地帯を形成していた。そのため、当時の人々は日本列島の西と東北を行き来する時は、甲府から相模川沿いに下り、平塚から横須賀に出て、そこから船で房総半島に渡った。

 房総半島の乾いた台地である国府台は、源頼朝が鎌倉に攻め込む時に陣を置いた軍事上の重要拠点だった。それに比べて西の山と東の湿地に囲まれた江戸は、陸の孤島だった。

 1590年、秀吉によって所領を江戸に移された家康の家臣たちは、「左遷だ」と激高したくらいだ。だが、家康は利根川の流れを銚子に向ける「利根川東遷事業」を行い、湿地を乾田化して一大穀倉地帯に変えたのだった。

 水路を巡らせた江戸の水上運搬網など、地形と広重の浮世絵をもとに江戸の謎を解き明かす。

(集英社 2530円)

「教養としての日本地理」浅井建爾著

 日本の国土は北東から南西にかけて細長く弧状に延びているため、位置関係を錯覚しやすい。

 例えば伊豆七島の最南端の八丈島は「東洋のハワイ」ともいわれる常夏の島で、東京から300キロほど南の海上にある。随分南にあると思われがちだが、緯度で見ると長崎市より北に位置している。「北陸」の福井県小浜市は、なんと東京都庁より南にあるのだ。

 また、東京、京都、大阪、福岡といった人口40万人以上の27市のうち、21市は北緯33~36度の間にあり、日本の総人口の70%以上がこの範囲に集中している。高度成長以来、3大都市圏に人口が集中する半面、地方では過疎化が進んでいる。

 他に、日本の大陸棚は排他的経済水域より広い、「盆地」と「平野」の違いなど、意外な知識がびっしり詰まった一冊。

(エクスナレッジ 1650円)

「地理と地形でよみとく世界史の疑問55」関真興編著

 パレスチナは紀元前3000年以降にメソポタミア文明が栄えた「肥沃な三日月地帯」の一角だった。さまざまな民族や勢力が入り交じり、「文明の十字路」と呼ばれた地に紀元前1000年ごろイスラエル王国が誕生。その中心のエルサレムはユダヤ教の聖地であると同時に、ユダヤ教から生まれたキリスト教の聖地、さらにこの2つの宗教に啓発されて生まれたイスラム教の聖地ともなった。

 その後、この地を支配してきたオスマン帝国が衰退。1915年、イギリスがアラブ人にオスマン帝国から独立させると言いながらユダヤ人のパレスチナ復帰を援助するという二枚舌外交を行ったことからパレスチナ問題が勃発した。

 他にロシア皇帝ピョートル1世がモスクワからサンクトペテルブルクに遷都した理由など、世界史の謎を読み解く。

(宝島社 990円)

「東京のトリセツ」昭文社企画編集室編

 東京の都心部は武蔵野台地と東京低地の境目にあり、川によって浸食されできた谷が多い。23区内には900以上の坂があり、特に多いのが千代田区、港区、文京区、新宿区で、坂道の60%がこの地域にある。

 坂の名で多いのが「富士見坂」である。江戸時代には高台では富士山がよく見えたからだ。現在でも都心部に十数カ所の富士見坂がある。だが、江戸時代と違って、現在はほとんどの坂から富士山は見えない。

 渋谷の宮益坂もかつては富士見坂という名だったが、見えなくなったので宮益坂と名を変えた。荒川区西日暮里の富士見坂からはダイヤモンド富士が見えたが、マンションが建ったため、現在は見えなくなった。

 日本一の急勾配を登る高尾山のケーブルカーなど、意外と知らない東京の地形の話題が満載だ。

(昭文社 1980円)

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