著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「旅がくれたもの」蔵前仁一著

公開日: 更新日:

 いやはや、面白い。バックパッカーのバイブルとも言うべき「ゴーゴー・インド」(1986年)の著者・蔵前仁一が、これまでの旅で買ったり、もらったり、拾ったりしてきたさまざまなものを写真付きで紹介する本だ。

 この本が面白いのは、なんでこんなものを買ったの? というものがたくさん掲げられていることだ。たとえば、セルビアの田舎町の骨董屋で買った水タンク型のウオーターサーバー。高さ30センチもあって5000円。こんなものにいちいち水を入れて飲むなんてことをするわけもないのに、なぜか買ってきてしまい、一度も使うことがなく、蔵前家の棚の奥でほこりをかぶっている。

 あるいは、ウガンダの首都カンパラの路上で見つけた灯油ランプ。これは、ブルーバンドというマーガリンの空き缶を再利用したもので、価格はわずか45円。本書が面白いのは、著者のとぼけた文章が付いていることで、この項では西アフリカを旅するときはフランスパンにブルーバンドのマーガリンをつけて食べたが、世の中にこんなまずいマーガリンがあるのかと思った、と書いている。毎朝食べていると慣れてくるが、それでもまずい、と念押しするから、どんなにまずいのか食べてみたくなってくる(笑い)。

 アフリカで木彫りの仮面を買ったときは、雑貨屋でノコとトンカチと釘、材木屋で角材を購入し、梱包する箱を作ってしまうから、すごい。好奇心が全開の一冊だ。

(旅行人 2200円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

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