著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

公開日: 更新日:

 MRとは、メディカル・リプレゼンタティブの略で、つまりは「医薬情報担当者」。ひらたく言えば、製薬会社の営業である。処方箋を出す医者にアプローチして、自社の薬を売るのが彼らの仕事で、厚生労働省が認可する団体の「MR認定試験」に合格すると、資格を得ることができる。

 本書は、製薬業界の最前線で働くそのMRたちの物語だ。医師への過剰な接待攻勢が問題になって、このMR制度がつくられたようだが、では接待がまったくなくなったのかというと、そうでもない。あまりにも過剰な接待はなくなったようだが、形を変えて残ってもいるようだ。

 本書で描かれるのは、まずさまざまな医者の生態である。さらに、明暗を分けるMRたちの生活も描かれていく。連作のように描かれるそれらのドラマだけでも実は面白い。しかしそこまではプロローグといってよく、真のドラマは、ライバル企業のMRが登場してから始まっていく。虚々実々の争いが克明に描かれていくのだ。面白いのは、ライバル企業との対決に勝っても物語が終わらないことで、次に待っているのは、内部の敵なのである。自分の利益しか考えない連中との対決がまだ待っているのだ。その戦いが痛快である。

 人物造形がやや類型的であることを指摘するむきがあるかもしれないが、そういうことを気にしていたらこの手の小説は読めない。痛快無比の通俗小説として楽しまれたい。

(幻冬舎 2200円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  2. 2

    夏の京都に異変! 訪日客でオーバーツーリズムのはずが…高級ホテルが低調なワケ

  3. 3

    中日ポスト立浪は「侍J井端監督vs井上二軍監督」の一騎打ち…周囲の評価は五分五分か

  4. 4

    不倫報道の福原愛 緩さとモテぶりは現役時から評判だった

  5. 5

    ヒロド歩美アナ「報ステ」起用で波紋…テレ朝とABCテレビの間に吹き始めた“すきま風”

  1. 6

    中日立浪監督「ビリ回避なら続投説」は本当か…3年連続“安定の低迷”でも観客動員は絶好調

  2. 7

    阪神岡田監督の焦りを盟友・掛布雅之氏がズバリ指摘…状態上がらぬ佐藤輝、大山、ゲラを呼び戻し

  3. 8

    夏休み到来! 我が子をテレビやゲーム、YouTube漬けにしない「割と簡単にできる方法」

  4. 9

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  5. 10

    新庄監督は日本ハムCS進出、続投要請でも「続投拒否」か…就任時に公言していた“未来予想図”