「土偶を読む」竹倉史人氏

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「縄文時代の遺物・土偶は、すでに2万点近く出土しています。さしたる根拠がないのに『土偶は女性をかたどった像である』というのが通説で、中学と高校で今使われている教科書の大半にもそう明記されているんです。私は土偶を見るたび、本当に女性像なのか? とムズムズしていました。東京大学で神話をテーマに連続講義をすることになったのを機に、従来の定説に疑問を持ったのが独自の土偶研究をするきっかけでした」

 著者は考古学者ではない。研究機関や学会にも属さず、民俗学、宗教学などにも広く目を向ける人類学者だからこそ思いついた研究だ。日本の神話といえば8世紀の古事記や日本書紀だが、それらが時の権力者に都合よく編まれているのは周知の通り。神話から人類の精神性を探りたいと考えた著者は、そのはるか前、文字を持たない縄文人たちの精神性を表すものとして土偶に着目した。

 本書は土偶に秘められた謎に迫るスリリングな研究読み物。とはいえ、読むのに専門知識はいらない。研究に先立ち購入した土偶のレプリカが届くと、数日間同衾したという著者の「土偶愛」を面白がることができれば十分だ。研究の始まりから、過程、成果に至るまで、著者のワクワク感が伝わり、まるで謎解きをするかのように読ませる。

「古代人は呪術によって自然界を自分たちの意のままに操作しようと試みたんです。とすると、土偶の形は何かに寄せて作ったと考える方が普通でしょう? 私は『土偶は、縄文人が食べていた食物をかたどったフィギュアである』と大胆かつ具体的な仮説を立て、『縄文脳インストール作戦』を開始。信州、東北の森や房総の海に片っ端から入って縄文人になってみたんですね。なんと! 縄文人の重要な食料だったオニグルミを拾って2つに割ると、ハート形土偶にうり二つ。クリの果実を見れば横断線などが合掌土偶、中空土偶のモチーフっぽい。貝を手にすると星形土偶の頭頂部の造形とそっくり……。仮説を裏付ける発見ばかりで、驚きの連続でした」

 縄文時代は、1万6500年前から2300年前の約1万4000年間と長い。6期に時代区分される中、土偶の出土数が中期からぐんと増えるのは、重要なエネルギー源であったトチノキの栽培が始まる時期と重なる。植物の成長をつかさどるのは精霊であるという神話的な心性により、例えば妊婦像とされてきた土偶は人間の女性ではなく、植物に宿る女性の精霊をイメージしていると著者は解く。

「新説の発表後、世論からはすでに圧倒的な支持を得ています。でも皮肉なことに考古学からの反応は微妙(笑い)。土偶研究が始まった明治時代には『この土偶の見た目は○○に似ている』というアプローチが中心でしたが、大正・昭和と時代が進んで人類学が専門分化して考古学が生まれると、そうした見方は稚拙だという“信仰”が生まれます。考古学者の多くはいまだにこれを信じているんですね。私が行った見た目の類似を重視するイコノロジー(図像解釈学)の方法論はじつに明治以降ほとんど忘却されていたものです。私の新説は考古学の“信仰”を打破するものになるでしょう」

 土偶研究に費やした2年間を「夢のような日々だった」と著者は振り返る。専門家に問うより、広く世間に問おうと4月に上梓された本書。すでに4刷、2万部近く売れていることが、何をか言わんやである。

「土偶は、世界にアピールできる日本の財産『クールジャパン』そのものだと思います」

 本書を読み終わるころには、土偶をまじまじと見たくなること必至。その第一歩に、上野の東京国立博物館に常設展示されている遮光器土偶を見に行こう。 (晶文社 1870円)

▽たけくら・ふみと 人類学者。独立研究者として大学講師の他、講演や執筆活動を行う。武蔵野美術大学映像学科を中退後、東京大学文学部宗教学・宗教史学科卒業。東京工業大学大学院社会理工学研究科価値システム専攻博士課程満期退学。著書に「輪廻転生 〈私〉をつなぐ生まれ変わりの物語」など。

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