「星新一の思想」浅羽通明著

公開日: 更新日:

 ショートショートの名手として誰もが知る作家・星新一。彼は知名度の高さに反して、長年批評の対象として扱われてこなかった。

 しかし最近、星作品の卓越した予見力に注目が集まっている。例えば「声の網」という作品には、忘れそうなものを保存でき、必要に応じて電話一本で取り出せる情報銀行というアイデアが描かれ、私たちがネットを通して得ているサービスが詳細に出てくる。本書は、こうした先見力に満ちた星新一の全仕事を読み解きながら、彼の思想を考察した一冊だ。

 著者は、彼の思想の根底に秘密というキーワードがあると指摘。大正生まれの星は、兵役回避のために視力を低下させようと長年、本を近づけて読むようにし、計画を見抜かれないよう射撃部に入ったということをエッセー「眼鏡について」で告白しており、この経験が作品に登場するスパイにも反映されていると著者はいう。

 さらに通常のSF小説では、残虐な世界を警告するディストピアが描かれるのに対し、星作品では正義を相対化する「価値観の相対化」が行われているともいう。星作品を改めて読み返したくなること必至だ。

(筑摩書房 2200円)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  2. 2
    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  3. 3
    木村拓哉「Believe」は視聴率もレビューも天海祐希ファン次第? 夫婦役に《違和感》批判の壁

    木村拓哉「Believe」は視聴率もレビューも天海祐希ファン次第? 夫婦役に《違和感》批判の壁

  4. 4
    「嵐」新会社設立で企業はCM契約に虎視眈々も…故ジャニー喜多川氏との“広告料の約束事”はどうなる?

    「嵐」新会社設立で企業はCM契約に虎視眈々も…故ジャニー喜多川氏との“広告料の約束事”はどうなる?

  5. 5
    眞子さんが小室圭さんと手にした“40平米の自由”…ジーンズにTシャツの質素な装いがメインに

    眞子さんが小室圭さんと手にした“40平米の自由”…ジーンズにTシャツの質素な装いがメインに

  1. 6
    何でもかんでも旧ジャニーズを叩けばいいってもんではない…FCで数百億円の儲けは出ない

    何でもかんでも旧ジャニーズを叩けばいいってもんではない…FCで数百億円の儲けは出ない

  2. 7
    自民「補選全敗」効果で政倫審が再始動 二階・萩生田・杉田ら“ケタ違い”裏金議員への追及が始まる

    自民「補選全敗」効果で政倫審が再始動 二階・萩生田・杉田ら“ケタ違い”裏金議員への追及が始まる

  3. 8
    小室圭さん“年収倍増”報道で《お前らが努力しなかった10年で年収3800万円になった》投稿が話題

    小室圭さん“年収倍増”報道で《お前らが努力しなかった10年で年収3800万円になった》投稿が話題

  4. 9
    元Kis-My-Ft2“辞めジャニ”北山宏光の大誤算…ソロコンサートのチケットが売れない!

    元Kis-My-Ft2“辞めジャニ”北山宏光の大誤算…ソロコンサートのチケットが売れない!

  5. 10
    福山雅治は自宅に帰らず…吹石一恵と「6月離婚説」の真偽

    福山雅治は自宅に帰らず…吹石一恵と「6月離婚説」の真偽