「被害者の顔」エド・マクベイン著 加島祥造訳

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 警察小説といえば、エド・マクベインの87分署シリーズを抜きに語ることはできない。1956年の第1作「警官嫌い」から2005年の「最後の旋律」まで全56作、警察小説というスタイルを確立し、後に続く作家たちに多大な影響を与えた人気シリーズである。

 ただし、残念ながら現在紙媒体で手に入る文庫は本作のみ(電子書籍では入手可)。とはいっても、シリーズの雰囲気は十分に堪能できる佳作だ。

【あらすじ】舞台はニューヨークを彷彿とさせる架空の街、アイソラにある市警、87分署。市内でも凶悪事件の多い分署で、刑事課には二級刑事のスティーブ・キャレラ、マイヤー・マイヤーら個性的な刑事たちが詰めている。

 夏が近いある夕べ、酒店で働く女性、アニイ・ブーンが胸に銃弾を撃ち込まれて殺された。また87分署の刑事ロジャー・ハヴィランドが路上で喧嘩している2人の男を止めようとして殺害されるという事件が起こった。

 分署ではこの2つの事件を同時に追うことに。折しも、87分署ほど凶悪事件が多くない30分署から転勤してきた二級刑事のコットン・ホースが新たにメンバーに加わった。凶悪事件に慣れていないと思われたくないホースは、ハヴィランド殺害の容疑者のアパートへキャレラと共に乗り込むが、踏み込む前にドアをノックするという失態をしでかし、キャレラを危険にさらしてしまう。

 一方、被害者のアニイを調べていくと、彼女にはいくつもの顔があり、一体彼女の真の顔はどれなのかとキャレラらは途方に暮れる……。

【読みどころ】複数の事件と個々の刑事たちの動きが一体となって事件の解決へ向かっていくという、現在の警察小説や警察ドラマによく見られるパターンの原形がここにはある。<石>

(早川書房770円)

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