北上次郎
著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「世界は縮まれり」 湯浅邦弘著

公開日: 更新日:

 西村天囚「欧米遊覧記」を読む、と副題のついた本だ。明治43(1910)年、朝日新聞社主催の世界一周旅行ツアーが行われ、57人が参加したのだが、そのツアーに特派員として参加した西村天囚が帰国後に著した旅の記録が「欧米遊覧記」。本書は、その「欧米遊覧記」を解説紹介する書だが、さまざまな資料をひもとき、引用し、西村天囚の旅ルポを補いつつも立体的に再構築している。

 たとえば、この旅に同行した日本画家の御船綱手が帰国後にまとめた「世界周遊実写 欧山米水帖」という画帖から多くのスケッチ画を、湯浅邦弘は本書におさめて、興趣を盛り上げているし、さらには、イタリアに向かう列車の停車中にあわただしく朝食を取るくだりでは、これに比べて日本の弁当文化は素晴らしいと書いたあと、日本の駅弁の歴史に関する一文を挿入するのである。このような手法で描かれているので、はるか昔の旅がリアルなものとして我々の前に現出するのだ。

 明治末年の世界一周ツアーに参加した人の名簿が巻末に紹介されていて(旅行代金は今の貨幣価値に換算すると700万から1200万円)、会社重役、代議士、銀行支店長などの名が並んでいるが、その中のひとり、宗方小太郎という人物が海軍司令部の命を受けて諜報活動をしていたのではないか、との推測も興味深い。途端に、明治という時代が生々しく立ち上がってくる。

(KADOKAWA 2970円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    3Aでもボロボロ…藤浪晋太郎の活路を開くのは阪神復帰か? 日本ハム、オリックス移籍か

    3Aでもボロボロ…藤浪晋太郎の活路を開くのは阪神復帰か? 日本ハム、オリックス移籍か

  2. 2
    本来は「9月左翼構想」だが…大谷が打てば打つほど手術明けの外野守備は前倒しの気配

    本来は「9月左翼構想」だが…大谷が打てば打つほど手術明けの外野守備は前倒しの気配

  3. 3
    訪日客狙い“奥日光2泊3日400万円ツアー”のアテが外れた理由

    訪日客狙い“奥日光2泊3日400万円ツアー”のアテが外れた理由

  4. 4
    「いまだに、ああいうスタンスは何なのだろうと…」当時の山田GMが首をひねった図太い神経

    「いまだに、ああいうスタンスは何なのだろうと…」当時の山田GMが首をひねった図太い神経

  5. 5
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  1. 6
    真美子夫人も共同オーナーに? 大谷「25億円別荘購入」の次は女子プロバスケチーム買収か

    真美子夫人も共同オーナーに? 大谷「25億円別荘購入」の次は女子プロバスケチーム買収か

  2. 7
    大谷「DH独占」打ちまくり、週間MVPも…他の野手を休ませられないロバーツ監督のジレンマ

    大谷「DH独占」打ちまくり、週間MVPも…他の野手を休ませられないロバーツ監督のジレンマ

  3. 8
    3人兄妹の末っ子だから年上と遊ぶ機会が多く、彼らと遊ぶだけの体力もあった

    3人兄妹の末っ子だから年上と遊ぶ機会が多く、彼らと遊ぶだけの体力もあった

  4. 9
    東山紀之社長の鉄面皮「SMILE-UP.」の体質は旧態依然…進まぬ被害者補償に批判と失望

    東山紀之社長の鉄面皮「SMILE-UP.」の体質は旧態依然…進まぬ被害者補償に批判と失望

  5. 10
    当時日本ハムGMだった山田正雄氏が「この性格はプロでやる上でプラスになる」と確信した決定的瞬間

    当時日本ハムGMだった山田正雄氏が「この性格はプロでやる上でプラスになる」と確信した決定的瞬間