著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「捜索者」タナ・フレンチ著、北野寿美枝訳

公開日: 更新日:

 主人公のカルは、シカゴ警察を退職してアイルランドにやってきた。なぜ警察をやめたかは短い回想で語られるが、妻と娘とも別れ、いまはアイルランド北部の小さな村で廃屋を修繕しながら暮らしている。

 隣人のマート老人は何かとカルの面倒を見たがるし、雑貨店を経営するノリーンは、妹レナとの仲を取りもとうとする。カルはよそ者なので地元の人たちの冷たい視線を感じることはあるけれど、まあなんとか平穏に暮らしている。アメリカで暮らしている娘とは週に1度、電話で話をしているし(娘が幼いときにぬいぐるみで遊んでいたことを思い出して、町で買った羊のぬいぐるみを大人になった娘に送ったら受け取ってくれるだろうかと思い悩むところはいじらしい)、取り立てて不満はない。行方不明の兄さんを捜してくれ、と地元の子供に頼まれるまでは。

 というわけで、カルの調査が始まっていくという話である。この手の小説は村の人々が何かを隠していて、それが徐々に明らかになっていくもので、これも例外ではないからその意味で驚きはない。

 しかし、この長編の美点は他にある。悠然とした筆致がまずいいし、キャラクターの造形がどれも素晴らしいのだ。さらに特筆すべきは、謎を解いたところで真の解決にはならないという構造だ。大切な人を失った心の傷をどうやって癒やすのか、との命題に正面から向き合うのである。だからラストで熱いものが込み上げてくる。

 (早川書房 1782円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    参政党・梅村みずほ議員の“怖すぎる”言論弾圧…「西麻布の母」名乗るX匿名アカに訴訟チラつかせ口封じ

  2. 2

    二階堂ふみと電撃婚したカズレーザーの超個性派言行録…「頑張らない」をモットーに年間200冊を読破

  3. 3

    選挙3連敗でも「#辞めるな」拡大…石破政権に自民党9月人事&内閣改造で政権延命のウルトラC

  4. 4

    11歳差、バイセクシュアルを公言…二階堂ふみがカズレーザーにベタ惚れした理由

  5. 5

    最速158キロ健大高崎・石垣元気を独占直撃!「最も関心があるプロ球団はどこですか?」

  1. 6

    日本ハム中田翔「暴力事件」一部始終とその深層 後輩投手の顔面にこうして拳を振り上げた

  2. 7

    「デビルマン」(全4巻)永井豪作

  3. 8

    【広陵OB】今秋ドラフト候補が女子中学生への性犯罪容疑で逮捕…プロ、アマ球界への小さくない波紋

  4. 9

    広陵・中井監督が語っていた「部員は全員家族」…今となっては“ブーメラン”な指導方針と哲学の数々

  5. 10

    キンプリ永瀬廉が大阪学芸高から日出高校に転校することになった家庭事情 大学は明治学院に進学